君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第24章 tempestoso…
その日の予約人数は20人。
雅紀さんの店でなら経験済みの人数ではあるけど、慣れていないスタッフとこの人数をこなすのは、正直不安でしかない。
雅紀さんはよっぽど心配だったんだろうな…
本店から何人か助っ人を送ろうかとも言ってくれたけど、俺は大丈夫だからとそれを断った。
受けてしまった以上やるしかない。
俺は朝早くから食材の仕入れと、仕込みに奮闘した。
漁港のある町だから、やっぱり素材には拘りたい。
結局、ある程度の仕込みを済ませた頃には、時刻は正午を過ぎていて…
「疲れた…」
それに最近良く眠れていないせいか、凄く眠い…
俺は小上がりになった座敷スペースに座布団を並べると、その上にゴロンと横になった。
掛け布団なんてないから、漁師のおっちゃんから貰ったモッコモコのベンチコートを布団がわりにした。
スマホに、バイト君達の出勤時間に合わせたアラームをセットして瞼を閉じると、自分でもビックリするくらい、あっという間に眠りに落ちて行った。
目が覚めたのは、それから二時間後…くらいかな…
なーんか物音がするなと思ったら、バイトの塚ちゃんが俺の寝てるすぐ真横で、おにぎりのフィルムを捲っていて…
「お前何してんの?」
瞼を擦りながら俺が言うと、塚ちゃんはアイドル顔負けの笑顔で俺におにぎりを差し出して来た。
「店長も飯まだでしょ?」
「そ、そうだけど…、お前の分なくなっちゃうじゃん…」
俺達の仕事は、ある意味体力勝負的な仕事でもある。
元々少食の俺と違って、普段から大食いの塚ちゃんが、おにぎり一個や二個じゃ、とても足りる筈がない。
なのに塚ちゃんは平然とした顔で、俺におにぎりを差し出して来るから、俺はそれをそっと押し返した。
「俺はいいよ。塚ちゃんが食いな?」
「でも…」
「俺、あんま腹減ってないし、それに今日は忙しくなるから、塚ちゃんに倒れられたら困るし…」
ま、塚ちゃんの申し出を断るのには、他にも理由はいくつかあるんだけど…