第26章 翡翠の誘惑
「へ~、オルオにしては空気を読めたんだね。やるじゃん!」
ペトラに肩をばしっと叩かれて、オルオは嬉しそうだ。
「まぁな!」
「マヤ、めずらしくオルオが気を利かせて兵長と二人にしてくれたんだから、今度こそ手を握って見つめ合えた?」
「え!?」
「だってほら~、行きの船では団長も一緒にいたから、甘いムードになれなかったんでしょ?」
「何を言ってるの、ペトラ! 団長がいなくても、そんな風にはならないから!」
「え~、じゃあ兵長と二人で何してたのよ」
かたくなに甘いムードを否定するマヤに、ペトラは若干不満そうに口を尖らせた。
「何って…。普通に話してただけよ。それだって最初はなんか… しゃべりにくくて…」
「なんで?」
「なんだろ…。久しぶりだったからかな…。舞踏会の招待が来てから、色んなことがいっぱい起こって遠ざかってたから… 兵長と…」
「あぁ、確かにね。ここ数日、イレギュラーすぎて何もかも遠くのどっかに行っちゃった感じだもんね。私なんか兵長どころか食堂の硬いパンすら遠ざかっちゃって懐かしいくらいだわ」
兵長から食堂のパンにまでペトラの話は飛んでしまって、マヤは目を白黒する。
「今朝のパンなんか、ありえないくらいフワフワだったもんな!」
オルオはバルネフェルト家の朝食で出されたパンのやわらかさを思い浮かべた。
「また明日から食堂のパンかよ… と思わないでもないけど、俺ら慣れてるもんな、硬いパン。スープにつけたら結構やわらかくなるしな? それに…」
パンの話をつづけるオルオを無視して、ペトラはマヤに話しかけた。
「パンの話は置いといて、マヤ。ここで二人で話して、遠ざかってた兵長を引き寄せられた?」
「うん。最初はしゃべりにくかったけど話しているうちにね、そうでもなくなってきて楽しかった」
「そうなんだ、良かったじゃん。早く次のデートに行けたらいいね!」
「……うん…」
頬を赤らめて小さな声で返事をするマヤ。
「さっきの兵長の “どっか行け” の目線からすっと、結構すぐにでも誘われるんじゃねぇの?」
オルオは自身に向けられた視線を再び思い出しながら、意見を言う。