第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
マヤはドキドキしながら先を行くリヴァイの後をついていくが、一向にオリオンを止める気配がない。
そうこうしているうちに大きな宿と、あんなにあった店もなくなってしまった。
……あれ? ここがイカホ温泉じゃないの…?
マヤの疑問は、リヴァイが森の中へ入っていったことによって決定的になった。
「あの兵長、どちらへ…?」
声をかけられて振り返るリヴァイの表情は、相変わらず何を考えているかわからない様相だ。
「……宿だが?」
「でも…!」
何を言っているんだといったリヴァイの声色に負けずに、マヤは必死で訴えた。
「さっきのところがイカホなんでしょう? 看板もあったわ」
温泉郷の入り口とみられる大階段の脇には “ようこそ、イカホ温泉へ” と書かれた立て看板もあったのだ。
「確かにあそこは中心部らしいが、行く宿は森の中だ」
「そうですか…」
そう言われたら、何も言わずに大人しくついていくしかない。
それからしばらく馬に揺られて、ますます深くなっていく森の木々のざわめきにマヤの心もざわざわとしていると、急に森がひらけた。
木立の中に小ぢんまりと建つ平屋の宿。
いや、一見宿には見えないかもしれない。
森の中の一軒家、隠れ家的な。森の人が住んでいそうな、ただのひなびた古風な建物。
だがそれが温泉宿だという証拠が、建物の向こうに立ち昇っている。
「……あれは…」
マヤのつぶやきに、リヴァイが即答した。
「湯けむりだろうな」
「すごい量…!」
先ほど通過したイカホの温泉郷も、ここかしこから湯けむりが上がっていた。
しかし今、二人の目の前で立ち昇る湯けむりの迫力は、その比ではない。とても一軒の宿だけの湯けむりとは思えないほど。
「行こうか」
オリオンとアルテミスからそれぞれおりて、馬柵につないでいると宿から老人が出てきた。
「リヴァイ兵士長ですかな?」
「あぁ」
「ようこそおいでなさった。さぁさ、中へどうぞ」
皺だらけの顔をほころばせて早速案内しようとした老人は、あっと立ち止まった。
「いや、その前に馬屋を見ていただきましょうか。大切な寝床ですから」