第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「だ~め! マヤはこっち!」
ぐいと腕をペトラにつかまれて、強引にベッドに引きずりこまれる。
狭いがゆえに完全に密着した状態だ。
「もう、ペトラったら!」
完全に抵抗することをあきらめて、マヤは笑った。
「でもそうね。私の家では一緒のベッドで寝たんだもの。やっぱり一緒がいいよね」
「そうだよ! それにせっかくマヤがカラネスにお泊まりに来てくれたのに、一緒に寝ないなんてありえないから!」
「お泊まりに来たって…。カラネスに寄ったのは任務だけどね」
「そこは兵長に感謝だね! 全周遠征訓練でもなければ、なかなかマヤと一緒に故郷に帰れないもの」
「ふふ、そうね」
布団の中でペトラの体温を感じているうちに、遠慮する気持ちもすっかりどこかへ飛んでいってしまった。
「ペトラ…、あったかい」
「マヤはいい匂い~」
マヤの髪に顔をうずめていたペトラだったが。
「あれ?」
「どうしたの?」
ふざけてわざとミケのように、スンスンと大きく嗅ぐ音をさせるペトラ。
「兵長の匂いがする!」
「えっ、なに言ってるのよ」
「マヤっていい匂いじゃん? 石けんの香りにふわっと優しく花のような、それでいて紅茶のような?」
「そうなの? 紅茶のポプリの移り香かな?」
「そうかもね。そのマヤのいつもの匂いにプラスなんか兵長の匂いがする!」
「……そんな訳ないでしょ! お風呂だって入ったのに…!」
マヤの顔は真っ赤だ。体温も上がった気がする。
「嘘だよ~。からかっただけ」
「ひどい!」
ぽかぽかとペトラを叩く。
「あはは、ごめんごめん。でもなんかいい匂いがするのは本当だよ? それに石けんっていうかなんかすごくいい匂いがするじゃん、兵長って。その匂いもマヤから香ってる気がする」
「そんなの気のせいよ」
「あはは、むきになってる」
「なってないわよ!」
「なってる!」
マヤとペトラは狭いベッドの中で密着しながら互いを押し合いっこをしていたが、急に同時にやめた。