第29章 カモミールの庭で
あきれたようにリヴァイがつぶやいた途端に、ジョージはぽんと手を叩いた。
「それだよ、兵士長」
「……は?」
「同じ紅茶バカ同士なんだ。ウィンディッシュさんなんて他人行儀でなくジョージと呼んでくれ」
「………」
リヴァイは少々困ったような顔をして、黙ってしまった。
……それは俺も思っていた。
ただ単に部下の兵士の親ってだけなら、そんな気を遣う必要もねぇだろうが、マヤの親なんだ。呼び捨てる訳にもいかねぇだろうし、言葉遣いもそれなりに気をつけたつもりだ。少なくとも王都のクソ貴族や憲兵団のお偉方と会うときよりは。だが長続きはしなかった。ウィンディッシュさん呼び以外はいつもどおりになっちまったが、一応敬称で呼ぶことでギリギリ面目を保っていると…。
敬称のウィンディッシュさん呼びが無難だと思った。いきなりのジョージ呼びは、この先ずっと大切にしたい相手であるからこそ、言えない気がした。そしてお父さんと呼ぶのは、それこそよく巷で聞くような “俺はお前のお父さんじゃない!” 状態になる気がした。
最善だと選択したウィンディッシュさん呼びだが、そもそもマヤをウィンディッシュで普段は呼ばないから、なかなかの違和感というか、若干居心地の悪い状態がつづいていた。
……本人が呼べというなら、それが一番いい。
胸のつかえが取れたリヴァイは、すっきりした顔をジョージに向けた。
「ジョージ、これからも美味い紅茶を淹れてくれ」
「了解、兵士長」
二人の紅茶バカが、目と目でにやりと笑い合う。
「まぁ! まるでプロポーズみたいね」
リヴァイの言葉にルチアがはしゃぐ。
そして。
「私のことも、ルチアと呼んでくださいね! そうだわ、あなた… 兵士長にケーキをお出しして」
「今日の分は売り切れたよ」
「あら、そうなの… 残念」
ルチアのケーキの話題で、マヤは急に思い出した。
「お母さんに訊きたいことがあったんだ」
「うん? なんなの?」
「紅茶にはやっぱりスコーンじゃない? でもお母さんはパウンドケーキを焼くことの方が多いわ。どうしてなの?」