第27章 翔ぶ
……やはり早々に嗅ぎつけたか。
エルヴィンは何もかも自身の予想したとおりだと、その大きな目をなかば閉じた。
「誰から聞いた」
「誰でもいいだろうが。そんなことより答えろ。レイモンド卿の条件をのむということは、マヤを結婚させる気なのか」
「……全く…、どいつもこいつも…」
ぼそっと聞き取れないほどの小さな声でつぶやくと、はぁっと少々大げさにため息をついた。
「リヴァイ… この一週間、午後の訓練も執務も放り出してどこかに行っていたかと思えば、そんな情報を手に入れるためだったのか。私情で職務を粗末にすることは許されない」
その言葉でリヴァイの顔が目に見えて変わった。青灰色の目の奥の光が鋭くなる。
「粗末にはしていねぇ。確かに午後の訓練をエルドに任せて兵舎から離れてはいたが、訓練も執務も疎かにした覚えはねぇ。それに…」
リヴァイの青灰が一瞬かすかに揺らぐ。
「私情なんかじゃねぇ。大事な部下がくだらねぇ訳のわからねぇ任務で毎日拉致されているんだ。非常時に備えておくのは当たり前のことだろうが」
「ほぅ…、確かにそのとおりだね。私が任命しなくても自発的に率先して、しかも秘密裡にマヤの護衛をしてくれていたという訳だ。礼でも言おうか。ただし “拉致” という言葉はいただけない。レイモンド卿は正式に私の許可を得て、マヤと行動をともにしているのだから」
エルヴィンは愉快がる声で思いきり皮肉をぶつけながら、最後は上司らしく部下の不適切な言いぐさを責めた。
だがリヴァイには皮肉も叱責も通じない。
「ぐだぐだと御託を並べてねぇで、とっとと答えろ。いくらお前が団長だろうが、勝手に他人の人生の重大事を決めていいことにはならねぇ。……それが許されるとしたら、人類と巨人の攻防における不測の事態のときだけのはずだ…」
……マヤを想うあまりに、冷静さを欠いている。
エルヴィンは答えを急いてくるリヴァイを見つめながら笑いがこみ上げてくるのを、なんとかこらえた。
「まぁ待て。マヤを守りたいがために午後の職務を放棄して、その穴を埋めるために夜が更けるまで執務の残業をしていた涙ぐましい努力は認めよう」
「……知っていたのか」
夜な夜な残業をしていたことを知られていた。
リヴァイは苦しげに声を絞り出すしかなかった。