第27章 翔ぶ
オルオの数え歌の話ですっかりリラックスして笑っているマヤに安心して、ペトラは立ち上がった。
「じゃあ帰るわ。コップは私が洗っておく」
「ありがとう」
二人分のコップを掴んでペトラは出ていく。
扉を閉め際に振り返った。
「おやすみ」
「おやすみ、ペトラ」
扉は閉まり、マヤは部屋に一人になったが、ペトラの言うとおりに早く寝ようと思った。
「……それがいいわ。ペトラの言うとおり。まだ五日もあるんだしね…」
ランプの明かりを消して、そのままベッドに潜りこむ。
途端にどっと疲れが押し寄せて、オルオがスキップしなくても、マヤは深い眠りについた。
少し時をさかのぼって、団長室では。
想定していたとおりに “血相を変えて” 飛びこんできた人物は、ノックもせずにいきなり乱暴に扉を蹴破る勢いで。
内心 “来たな” とほくそ笑みながら、ゆっくりとエルヴィンは机上の書類から顔を上げた。
「おい、何を考えていやがる」
「リヴァイ、どうしたんだ? 何かあったのか?」
わざととぼけてみせながら、しげしげと対面している男の顔を観察した。
……血相を変えている、といってもこれは親しい者にしかわからないだろうな。
実際、一見リヴァイの顔は怒りで真っ赤になってはいないし、青ざめてもいない。眉間に皺が刻まれていることは通常運転であるし、彼のことをよく知らない人が見れば、血相を変えているとは全く考えないであろう。
だがよく観察してほしい。
美しい曲線を描いているしなやかな眉はいつもよりそのカーブが険しいし、こめかみにはうっすらと青筋が浮き出ている。声はわずかに苛立ちのビブラートで揺れている。
斜に構えた小柄な体躯も、全身いっぱいで抗議を表しているではないか。
「わかってるくせに、しらばっくれるのはよせ。てめぇ、レイモンド卿のふざけた言い分をのんだそうじゃねぇか」