第27章 翔ぶ
「ハンジさん、新薬の画期的な配合を思いついたなんてすごいですね」
「そうなんだよ、マヤ~! クモを見ていて思いついたんだ!」
「くも?」「雲?」
顔を見合わせるマヤとペトラ。
「数式みたいな形の雲… かな…?」
「ちっがーう! 蜘蛛だよ! 雨上がりに見たんだ、雨粒を無数につけた蜘蛛の巣を。それはもうクリスタルビーズのネックレスみたいなね。あまりにもキラリキラリと光るものだから近づいてみると、黄色と黒の縞模様の蜘蛛が動き回っていてね。眺めているうちに、だんだん原子に見えてきたんだ」
「「はぁ…」」
なんだかよくわからない話になってきたと、力のない相槌を打つマヤとペトラ。
「原子とは今我々のまわりすべてにある物質の究極の正体だよ。どんどん分解していくと、それ以上は分けることのできない最小の物質になる、それが原子だ。そして原子には中心に核があるんだけど、そのまわりをぐるぐると周っている物質があるんだ。それが何かはまだよく解明されていないんだけどね。だが私は蜘蛛の巣が与えてくれたインスピレーションを…」
「分隊長、分隊長…!」
熱弁をふるっていたハンジは、モブリットにさえぎられて不機嫌になった。
「なんだい、モブリット? 今からが話の核なんだよ?」
「マヤとペトラが困ってますから、詳しい話はそのへんで…」
「え~! そんなことはないだろう。君たち、聞きたいよね? いかにして私が蜘蛛の巣から物質の本質に近づき、そこから人体に作用する新薬の開発に関わる化学式を…、うん?」
ハンジはようやく目の前の二人が少々… いやかなり困っている顔をしていることに気がついた。
「……あれ? もしかして退屈だったかい?」
「「いえ…!」」
二人の声が揃った。ペトラが代表して話す。
「退屈なんてことは決してないんですけど、ちょっと専門的なことは私たちよくわからないんで…。省略してもらえたら助かるかな~、なんて」
こくこくと、マヤもうなずく。
「そうか、確かに今この食堂で話せるような簡単なシロモノではないからね。どうせ聞くなら夜を徹してじっくりと聞きたいのは当然だね! わかるよ! 仕方がない、今は省略しようじゃないか」
勝手に良い方向に解釈してハンジは、にこにことフォークでチキンソテーをぶっ刺した。