第27章 翔ぶ
レイは邪気のない笑顔で買い物をしよう、芝居を観よう、食事をしようと言ってくる。
これではまるで、デートの誘いではないか。
マヤはどう反応すればいいか、全くわからなくなってしまった。
そもそも舞踏会の夜に薔薇テラスで結婚してくれと言われて、今は考えられないと断ったことは、エルヴィン団長に報告していない。
あまりにもプライベートな問題である気がして、申告すべきかどうかは無論悩んだが、しなかったのだ。
それなのに…。
こんな幹部が全員そろっているなかで、そのときの会話の一端を暴露するなんて。
レイさんはプロポーズのことをはっきりと言った訳ではないけれど…。
“あのときお前はオレのことをよく知らねぇと言った。だから無理だと”
……こんなの、プロポーズとまではいかなくても、つきあってくれと言ったとか、そういう風に思われちゃうじゃない…。
幹部の皆さんが全員いるのに。
リヴァイ兵長がいるのに。
……レイさんとのあいだに、そういういきさつがあったことは知られたくなかった。
いつかは任務の一環として報告しなければいけない事案かもしれない。
でもそれならまずは団長だけに… もしくはミケ分隊長だけに相談の形で打ち明けたかった。
それなのにいきなり、それこそ “前ぶれ” もなく、幹部全員の前でさらされるなんて。
……リヴァイ兵長に知られてしまうなんて。
恥ずかしくて消えてしまいたい。
マヤは顔を赤くして、膝の上で握りしめている自身のこぶしが震えているのを見つめることしかできなかった。
……顔を上げられない!
団長の顔も、兵長の顔も見ることができない。
ここにいる全員の視線が今、自分に集中している気がした。
まだ十七の羞恥心の強いマヤには、残酷な状況だ。
「やだなぁ、レイモンド卿!」
マヤを救ったのは、ハンジのやけに明るい声だった。
「そんなはっきりとデートのお誘いだなんてさぁ! マヤは恥ずかしがり屋さんなんだから、もうちょっと言い方とか言う場所、言うタイミングなんかを考えた方がいいんじゃないかな? ほら、マヤが震えているじゃないか」