第27章 翔ぶ
通常の午後の訓練の第一部を終えたときと同じく、ミケとともに執務室に向かっているのだが、ひとつ違うことはミケの隣を歩くレイの姿。
……訓練を見学と言っていたけれど、執務まで見学するの? それに大体レイさんは、どうして急にやってきたの?
マヤはミケにもレイにも訊きたいことが山ほどあったが、全く質問できないでいる。
幹部棟が見えてきた。それと同時に正門を入ってすぐのところの空きスペースにとまっている立派な白馬の馬車も視界に入る。車体には見覚えのある白い薔薇の紋章。バルネフェルト家の馬車だ。
……あれはレイさんのところの馬車ね。
連絡船は貨物や兵団の物資、ときには馬も運搬すると図書室で読んだ本に書いてあったけれど、本当に馬車ごと来たんだわ…。
幹部棟に入り、階段で二階へ。
……やっぱり執務も見学するのね…。
訓練の見学は距離もあったことだし、途中からはレイの存在が気にならなくなっていたマヤだが、さすがに狭い執務室で一挙手一投足に注目されるのは集中できないし、居心地が悪い。
拒否できる立場ではないが、眉をひそめながら二人の後ろを大人しくついていけば。
………!
当たり前のようにミケは自身の執務室を素通りした。
……あれ? じゃあ…。
すぐ隣の兵長の執務室も通過し、目指すは団長室。
執務を間近で見学されるという懸念はひとまずぬぐえたが、団長室で何が始まるのだろうかと別の不安が湧き上がる。
コンコン!
ミケが勢いよくノックをした途端に扉を開け、レイとマヤを招き入れる。
「……失礼します」
緊張しながら入室すると、マヤは団長室にいるメンバーに圧倒された。
そこにはエルヴィンをはじめ、リヴァイ、ハンジ、ラドクリフと幹部の全員が顔をそろえて、レイとマヤを今か今かと待ち構えていたのだ。
「レイモンド卿、おかけください。マヤも」
エルヴィンにうながされて、マヤは躊躇しながらもソファの真ん中に座ったレイの隣に腰を下ろす。
なぜならそこしか、座るところは空いていなかったのだ。
もう一つあるソファにはハンジとラドクリフが座っていた。エルヴィンは当然執務机の椅子に座っているし、リヴァイはその右後方の壁に背を預け、腕組みをして立っている。ミケはその反対の左後方に静かに立った。