第26章 翡翠の誘惑
レイから借りている高価な耳飾りを落としてしまったという大失態。
一刻も早く捜しに行きたいが、ここでペトラを放置することは許されない。そんなことをすれば、恐らく失態をさらに重ねる事態になるだろう。
「……どうしよう…」
マヤが頭を抱えて消え入りそうな声でそうつぶやいたとき。
コンコン!
扉をノックする音が響いた。
「大丈夫か?」
心配そうな声とともに部屋に入ってきたのはオルオ。
「オルオ!」
救世主が現れたとばかりに、マヤの声は弾んでいる。
「ペトラは大丈夫よ。お水を飲んで、今は眠ってる…」
「……いつもどおりって訳か」
すやすやと眠っているペトラの寝顔を見下ろしたオルオの顔は、明らかにほっとしていた。よほど心配していたのだろう。
「ペトラが言ってたよ、オルオがくるくるまわすからだって」
「最初はどう動けばいいかわからなかったんだけどよ、そのうちコツを掴んだら楽しくなってきちまって。俺の腕の中でくるくるとまわっては笑うペトラが可愛くてよ…。でもぶっ倒れそうになるし、ほんと俺のせいでどうしようかと…」
オルオは辛そうな顔をしていたが、再びペトラの寝顔を見つめて、はあっと安堵の息をついた。
「無事で良かった…」
「うん、本当にね!」
マヤも心から同意してうなずいた。
「ところで、よくここにいるってわかったね?」
「あぁ、それはレイさんが教えてくれた」
「そうなんだ。……兵長は?」
「兵長はまたあの階段を上がったところの席で、師団長と一緒に公爵と話をしている」
「……そっか…」
……落とした耳飾りを捜すのに、兵長の手をわずらわす訳にはいかないわ…。
まずは自分で捜してみて、どうしても見つからなかったら… そのときは速やかに報告しないと。
でも兵長と踊っていたときには、まだ落としていなかったんだもの。
……きっとすぐに見つかるはず。
「オルオ、あのね…」
「うん?」
ペトラの寝顔を熱心に見つめていたオルオは、マヤの呼びかけに振り向いた。
「私ね、耳飾りを落としちゃったの」
その言葉で反射的にマヤの耳元に目をやったオルオは、指をさしながら叫んだ。
「あぁぁ! 本当だ、ない! あれ… なくしたら、やばいんじゃねぇのか?」