第26章 翡翠の誘惑
それは舞踏会が始まって2時間ほど経ったころ。
バルネフェルト公爵のたっての希望でバルコニー貴賓席に、リヴァイもろとも囲われてしまったマヤ、ペトラ、オルオ。
別の言い方をすれば、完全に公爵専用に隔離されてしまった調査兵団ご一行だったのだ。
公爵は有頂天になっている。
もともとお気に入りのリヴァイ兵士長を、思いがけず独占することができたところへ今日は、舞踏会の出席者にリヴァイ班のメンバーがいるという。
……リヴァイ君から巨人の話を聞けるのはもちろんだが、部下の子たちからも生の声を聞けるとは私はなんて運がいいんだ!
公爵の胸は躍った。
そして期待したとおりに、リヴァイ班の二人… 特にオルオ君の話は微に入り細に入り臨場感にあふれていて、まるで私もともに壁外調査に出て、恐ろしくも醜い巨人と戦っている感覚にすらなる。
……これは愉快だ!
オルオ君の話だけで、シャンパンもワインも何本でも開けられるではないか。
食が進む、杯を重ねる、もっと巨人の話を! もっと壁外調査の話を!
「君の話は最高の酒の肴だ。もっと肉を、もっと酒を!」
こんなにも私を楽しませてくれる調査兵団の皆の衆をねぎらいたい。
……どうすればいいかな?
そうだ!
「リヴァイ君、オルオ君、ペトラ君、マヤ君。肉は足りているか、酒は十分か? 他に食べたいものはないか? なんでも好きなものをリクエストしたまえ。どんなメニューであっても作らせようぞ?」
「……俺はいい」
即座にリヴァイが断ったがリヴァイ以外の三人は、公爵のこの申し出に顔を輝かせた。
「いいっすか? なんでも?」
「あぁ、なんでもだ」
「じゃあ…、一番高いステーキ肉とかありっすか?」
「もちろんだよ。オルオ君はステーキだね」
公爵はペトラの方を向く。
「君は?」
「えっと… 私は、チキンの丸焼きを食べてみたいです!」
「あっはっは、豪快だね。ペトラ君は鶏の一羽丸焼き… と」
最後にマヤへ。
「君は?」
「私は…、あっ…」
何かを言いかけたのに、急にマヤは口をつぐんでしまった。
「十分にいただいています。どれも本当に美味しくて…」
「そうかい? 慎み深いね、マヤ君は。よかろう、君には最高級の酒を贈ろう!」