第26章 翡翠の誘惑
「リヴァイ君は酒はそこそこ強そうだが、他の皆は弱いのかな?」
飲め飲めと煽っていた公爵だったが、大のお気に入りのリヴァイが険しい顔で飲みすぎだとたしなめているのを見て、そう声をかけてきた。
「あぁ。こいつらはまだガキだからな… そんなに強くねぇ。このような場は初めてだから大目に見てきたが、もうこれ以上は…」
リヴァイの眉間の皺がますます深くなる。
「そうかい、わかった。あまりにもリヴァイ君の話が痛快で、私もついつい勧めすぎてしまったね」
バルネフェルト公爵はほんの少し申し訳なさそうな声を出してから、
「どうだい、酔いざましに踊ってきたら? まだ踊ってないだろう?」
ペトラに向かって茶目っ気のある表情をする。
「えっ、あっ… はい、そうですね」
そう言われたら舞踏会に来ているというのに、まだ誰も踊っていないことに気づく。
だが “踊ったら?” と言われても本当に踊っていいのかもわからずに、ペトラはちらりとリヴァイの顔色をうかがった。
「ちょうどナイルも到着したことだし、公爵の話し相手はヤツに任せて踊るか」
リヴァイの視線は広間の一角をとらえている。慌ててペトラとマヤも振り返れば、確かにナイル師団長が来ていた。
公爵もナイルの到着に気づいて、声を弾ませた。
「あぁ、ナイル君が来たね! 彼にも色々と訊きたいことが山ほどあるんだ」
「なら、俺たちはフロアに下りるが…?」
一応は公爵に礼儀として、リヴァイは伺いを立てる。
「存分に踊ってきたまえ。それで腹が減ったなら、またいくらでも肉と酒を用意させよう。飲めや歌えやならぬ飲めや踊れや! あっはっは! 我ながらうまいことを言う」
美味しい酒と贅沢な食事、そして好物の壁外調査の話にすっかり酔ってしまってご機嫌の公爵は、自分の言葉にも酔ったのか腹をかかえて笑っている。
「行くぞ」
そんな公爵には目もくれずに、リヴァイはマヤたちをソファから立たせた。