第26章 翡翠の誘惑
舞踏会に招待するからには、いくら兵士の正装が兵服とはいえ相手はうら若き女性。せっかくの舞踏会を満喫してもらうためにもドレスを用意するくらいは別に不思議でもなんでもない。
そう考えてレイモンド卿がマヤにドレスを仕立てたと聞いても、別段リヴァイの心が騒ぐことはなかった。
だが。
仕立屋に適当に見繕ってくれと発注したのではなく、わざわざ個々にイメージやら意味やらをレイモンド卿が考慮して選んだらしい。
それは心中穏やかではない。
……やはりカイン卿と同じく、特別な想いを遂げるために招待してきやがったか。
そのことは予測…、いや確信していたとはいえ、あらためて現地である屋敷で現実を見せつけられると胸糞悪ぃ。
もやもやとした不愉快な気持ちをこれ以上大きくしないためにも、これから始まる舞踏会で気を抜かねぇようにしないと。
……絶対に手出しはさせねぇ。
リヴァイが静かに胸の内で炎を燃やしているとも知らずに、マヤとペトラは互いの宝石を見せ合っていた。
「ほんとだ。この耳飾り、結構重いね。大丈夫? 耳が痛くなるんじゃない?」
片手でマヤの耳飾りのアクアマリンをそっと持ってみて、ペトラは眉を寄せた。
「うん…。実はね、耳飾りって初めてなんだ。今は平気だけど、痛くなってくるものなの?」
「私もそんないっぱい持ってる訳じゃないし、持ってるのもこんな重くないもん。それでもずっとつけてたら痛くなってくるよ。ちょっと緩めておいた方がいいんじゃない?」
マヤが装着している耳飾りは、ネジで締めるタイプのものだ。
「でも落としたら大変だし…」
「確かにね。そこの加減が難しいけど、痛くなるのも大変だから。気をつけてたら大丈夫だよ」
「そうね…」
それでなくても慣れない貴族の屋敷での舞踏会。着慣れないドレスに何をしたらいいかわからない作法など、緊張の要因はいくらでもある。
一つでも不安な要素は前もって減らしておいた方がいいに決まっている。
「私は首飾りだから落ちる心配がないんだけどね。耳は落とすからなぁ…。私も気にかけておくから、ちょっとだけ緩くしときなよ」
「了解」
マヤはこくんとうなずくと、慣れない手つきで耳飾りのネジをほんの少しだけ緩めた。