第26章 翡翠の誘惑
「「すみません!」」
効果は抜群。ペトラとオルオは瞬時に大人しくなった。
「……ペトラ…、マヤも。まぁ座れ」
二人がソファに、すとんと腰をかける。
それを流し目で見てからリヴァイは静かに伝えた。
「……レイモンド卿がドレスを用意しているとは知らなかったが…。いい色だな。二人ともよく似合っている」
「ありがとうございます…」
リヴァイに似合っていると言われて、マヤは自分でも顔が赤くなるのを感じた。礼を言う声も震えてしまいそうなくらいに、胸がトクントクンと鳴っている。
……さっきレイさんに同じように似合っていると言われたときは、別になんでもなかったのに。
どうして兵長から言われたら同じ “似合っている” でも、こんなにドキドキするのかしら。
マヤがそんな風に考えている横で、ペトラも元気にリヴァイに礼を言う。
「ありがとうございます! さっきの髪結いさんが説明してくれたんですけど、レイさんは私とマヤの髪の色とか瞳の色とか… それに雰囲気? とか、そういうのに合わせて宝石をそれぞれ選んでくれたらしいです。そして宝石と合わせてドレスも作ってくれて」
「……レイモンド卿が選んだ?」
ただ単に仕立屋に命じて作らせたのだろうと思っていたドレスや宝石が、わざわざレイモンド卿が自ら選んだものだと聞かされて、リヴァイは急に眉間に皺を寄せた。
「はい。宝石やドレスの色をイメージしてくれただけではなく、石言葉の意味も考えてくれたんです。ね、マヤ?」
「うん」
マヤは嬉しそうにドレスを見下ろしながら、リヴァイに笑顔で報告する。
「私のこの碧い石は “勇敢と聡明”、ペトラの橙色の石は “友情と希望” という意味があるらしいです。綺麗なだけでなく、意味まであるなんて感激しました」
「……そうか」
リヴァイの声はいつもどおりに低く、なんの感情も表れてはいなかったが、内心では全くもって穏やかではなかった。