第26章 翡翠の誘惑
髪結いは相変わらずの素早い所作で、煌めく宝石に目を奪われているマヤとペトラに、耳飾りと首飾りをそれぞれつけた。
「やっぱりドレスとよく合っていますわね!」
美しい水色のドレスに碧い石。華やかなオレンジ色のドレスに橙色の石。
髪結いはその組み合わせに満足したように笑みを浮かべている。
「この宝石に合わせてドレスを仕立てたと伺ってますけど、本当だったんですね。よくお似合いですよ!」
「ありがとうございます。こんな上等なアクセサリーは初めてだし、なんかつけてるだけで緊張しちゃう…」
ペトラが胸元でキラリと光る橙色のペンダントにそっとふれる。
「ほんと緊張するね。結構重さもあるよ」
耳たぶに石の重さを感じたマヤも、指先でそっと淡い青の石にふれてみる。心なしかひんやりとした硬い石だ。
宝石にふれて頬を赤らめている二人の少女を見て、髪結いは嬉しそうに打ち明け話をしてくれた。
「その石はレイモンド様のご指定ですよ。マヤ様はアクアマリン、ペトラ様はインペリアルトパーズ。まず石ありきでドレスを仕立てると仰っていました」
「あっ、それ… 聞きました。石のイメージでドレスの色を決めたって」
レイの言葉を思い出しながら、ペトラが弾んだ声を出す。
「レイモンド様からお話をいただいたときにはお二人を存じ上げませんし、イメージがわからず言われるがまま石をご用意いたしましたが…。今こうやってお二人を目の前にしますと、本当にこの石をお選びになった理由が納得できますわ」
どういう意味なのかと、マヤとペトラは首をかしげる。
「それはもちろんお二人の波長と、レイモンド様が選んだ石がぴったり合うからですわ」
「「波長?」」
「そう、波長です。マヤ様の髪の色、瞳の色。そして私は今この短い時しかご一緒しておりませんが、マヤ様からにじみ出ているお人柄。そして声や笑顔…。すべてから感じ取るマヤ様のオーラです。これはペトラ様にも同じことが言えるのです」
「「………」」
外見から始まって人柄だのオーラだの、なんだか壮大でいてなおかつ掴みどころのない話が始まったなと、マヤとペトラは少々困った様子で顔を見合わせた。