第26章 翡翠の誘惑
「こちらへどうぞ」
「「「………?」」」
執事長のセバスチャンが自ら案内をしてくれるらしいのだが、その方向がおかしい。
屋敷の奥に向かうのではなく、先ほど入ってきたばかりの玄関の重厚な扉の方へ。
マヤ、ペトラ、オルオは戸惑いを隠さずに、互いの顔を見合わせた。
「ご面倒をおかけいたしますが、もう一度馬車に乗っていただきますゆえ」
扉を開けたセバスチャンは、やわらかな笑みを浮かべた。
「「「………?」」」
ますます意味がわからないマヤたち三人は狐につままれたような顔をして、うながされるまま馬車に乗りこんだ。
ゴトゴトゴトゴト… ゴトゴトゴトゴト…。
走り出した車内で、ペトラが真っ先に口をひらいた。
「……どこに行くんだろ?」
「さぁ…。俺ら、舞踏会に来たんだよな? さっきの屋敷でやるんじゃなかったのか?」
「私もそう思ってたんだけど…」
マヤが不安そうに眉を寄せる。
「あの変態パパ野郎と違って、レイモンド卿なら変なことはしないと思うんだけどな。俺も招待してくれたいい人だし…」
オルオは自分を招待してくれたレイモンド卿に感謝しているらしい。
「だよね! オルオなんか呼ぶ必要ないのに、レイさんってめっちゃくちゃいい人だわ。会ったらちゃんとお礼を言いなさいよ!」
「わかってるわ!」
ペトラとオルオがそんなやり取りをしているあいだに馬車は森を抜け、とある館に到着した。
別館だろうか?
本館に比べると小規模ではあるが、それでも宮殿のような立派な屋敷だ。
豪華な館ではあるが、人のいる気配がしない。
マヤたちが馬車を降りると御者は、
「そのままお入りください。中でレイモンド様がお待ちです」
とだけ告げて、去ってしまった。
「「……レイさんが中に…?」」
マヤとペトラは怪訝そうな声を出して、立ちすくむ。
「どうしてあっちのお屋敷じゃないんだろう?」
「人けもないし、静かでちょっと怖いね…」
なかなか屋敷の中に入ろうとしない二人を見かねて、オルオが声をかけた。
「レイモンド卿がいるんだったら別に怖くないんじゃね? とっとと入ろうぜ!」