第26章 翡翠の誘惑
「調査兵との並走…」
マヤはその斬新な在り方に目をみはった。
壁外調査の出陣時における、駐屯兵団による援護。まずは壁上に設置されている固定砲で周囲の巨人をあらかた掃討しておく。そうしてから開門して出陣するのだが、新たに接近してくる巨人には調査兵は目もくれない。その巨人を討伐するのは駐屯兵で結成された援護班の仕事だからだ。
壁を出てしばらくは、廃屋になっているとはいえ建物が散在している。援護班はそれを立体機動装置の足がかりにして討伐してきた。
だが、それだと機動範囲が廃屋のあるところに限られてしまう。
「そうだ。彼らはもっと広範囲で縦横無尽に動いて討伐の精度を上げたいと、それにはやはり馬を駆るのがいいんじゃねぇかと… それは熱く意見を出し合っていた」
「……確かに。こんなことを言うのはどうかと思いますが…」
マヤは次の言葉を出すのを少しためらったが、思いきって言う。
「騎馬で援護してくれるのなら…、おとりになって… 巨人を引き離しても… くれそうです」
自分や身内なら、おとりになって巨人を引きつけろと気軽に口にできるが、全く見知らぬ人たちにおとりになれとは言いにくい。そういう気持ちが働いて、少し口ごもってしまった。
「まさにそれを、イアンも言っていた」
「そうですか…」
「あぁ。そして調査兵として意見を求められた」
「……なんとお答えに?」
リヴァイは口をひらく前に、ゆっくりとまばたきをした。
それを見たマヤは “兵長… まつ毛… 長い…” とぼんやりと思った。
「半分名案で、半分愚案だと」
「……えっ?」
リヴァイから騎馬による援護班の構想を聞かされたときには、それは間違いなく素晴らしい案だと思ったマヤは少なからず驚く。
……騎馬の方が優れているわ。どこが愚案だっていうのかしら?
マヤはその小さな眉間に皺を寄せた。