ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《クリスside》
ごめんしか言わないなんて、卑怯だ…
「クリス…キミは神様に愛されてる」
…は?
「こんなに素敵な子に、俺みたいなやつは不釣り合いだって神様が怒ったんだよ」
何を言うの?
俺がこんなに苦しんでいるというのに。
「…キミはきっと幸せになれる」
「……」
「悔しいけれどキミを幸せにできるのは俺じゃない。…クリスに似合う素敵な人と、どうか幸せになってくれ」
いやだ、そんなことを言わないで。
俺はダリウスと一緒にいて十分すぎるほどに幸せだった。きみと離れたら俺はもう一生幸せになんてなれない。
「ダリウスが…ぼくを幸せにしてよ…」
縋る思いだった。
「ダリウス…ぼくと幸せになってよ…」
俺にはきみしかいない。
「ごめん…クリスとの幸せな未来を俺は想像出来ない…」
「…っ…」
「今はまだケリーを愛することは出来ない。でも、こどもが生まれて…家族になればきっといつの日かこれで良かったと思える時がくるような気がするんだ…。あれから度々考えたよ…キミが女の子だったら同じように思えたかもしれないって…」
「……ぼくが、女の子…だったら」
そのダリウスの言葉は俺の心を滅多刺しにした。
どうしてダリウスがそんなことを言うの…性別なんて関係ない、男でも俺のことが好きだと…愛してるんだと言ってくれたきみは一体どこへ行ってしまったの…?
ダリウスは俺の光だった。
ダリウスは俺のすべてだったのに。
そこでふと気づく。
俺の大好きなダリウスをこんな風に変えてしまったのはあの女…?
俺の幸せをぶち壊したのはあの女だ。
ダリウスをいやらしく誘惑して、
ダリウスに俺を裏切らせて、
ダリウスのこどもまで妊娠して…
俺から全てを奪ったのはあの女だ。
許せない…許せない…
皮膚の色が変わるほどに強く拳を握った。
俺は涙が止まらなかった。
ボロボロ泣き続ける俺にダリウスはごめん、と謝り続けた。ダリウスは優しい。ダリウスは悪くない。
悪いのは全部…大好きな人を誘惑したあの女だ。