ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《クリスside》
その日は突然訪れた。
俺の10歳の誕生日だったその日は、ダリウスの部屋で2人でパーティをすることになっていた。俺は楽しみで朝からずっとそわそわしていた。授業中も上の空で、懲りずに馬鹿なヤツらが俺に何かを言っている時もニヤニヤしていた。
ダリウスは大学関係が忙しいと言っていたので、あまり会えていなくて久しぶりに会える貴重な日でもあった。
今日は学校の終わりが1時間早い日だとすっかり忘れていて、予定よりも早く学校を出ることが出来た。
なんだ、神様はぼくを見放してなんかいなかったんだ!…その時の俺は本気でそう思った。
早く会いたい、はやる気持ちを抑えつつ急いでダリウスの家に向かう。第一声はなんて言おう、1時間も早く来たら驚くだろうな。準備がまだ出来てなかったらどうしよう…頭の中が勝手な想像を繰り広げる。
そして家の前に着いて、息を整えながらチャイムを鳴らした。…あれおかしいな、もう1度……しかし何度鳴らしても反応は無い。もしかしたら忘れ物があって買い出しに出ているのかもしれない。俺はドアの前の階段に座って手をこすった。もう12月だ、着込んでいるとはいえ寒い。
女の人の笑う声が聞こえて、目を向ける。
「……あ、れ?」
そこには女と腕を組みながら笑顔を浮かべるダリウスの姿があった。見間違いだ、と何度も目を擦ったけど大好きなその姿を見間違えるわけが無い。あれはダリウスだ。
段々と近付いてきて俺の姿を視界に入れた途端、ダリウスは固まったように立ち止まった。隣の女がどうしたの?と腕を引っ張る。
…触るなよ、俺のダリウスに!
女の視線が俺に動く。
その瞬間、ニッコリと笑って近付いてくる。
「あ、この子!もしかして待ち受けの?」
「……あ、あぁ…」
ダリウスの携帯の待ち受け画面は俺とのツーショットだった。
「写真より実物の方がかわいい!この子は誰なの?」
次の瞬間、ダリウスは信じられない言葉を吐いた。
「ケリー……っこの子は…
俺の弟なんだ」