第8章 タイムリミットとクローバー
「ならその蛞蝓さんにそうさせてもらえるくらい説得してからにして。いい?破ったら一生君になんか何も頼まないよ」
『…っ、頼まない、って』
「そんな子必要じゃないからね。転生してきても口聞きたくなくなるし、死んだ子になんか興味無いから」
『………わか、った』
「…意地悪言ってごめんね。あと…力になれなくて、ごめん」
力になれないことなど、恐らくこの子は分かっていた。
誰に頼んでみたところで解決策など存在しないということを。
分かっていて、それでも不安でどうしようもなくて、縋りに来てくれたのだろう。
一番に伝えたいはずのあいつではなく、私に。
『…いいよ。…リアがね、ポンコツなだけだから』
「そんな訳ないでしょ。中也に怒られるよ」
『……も、怒ってくれないもん』
そんなに、未来が視えないか。
…いや、違う。
怖いんだ。
視たくなんかなかったはずなんだ、元々。
それを無意識に悟った内容が内容で、調べたら調べたで行き詰まるなんて。
結局私が引き受けられたのなんか、依然として中也の相棒をちゃんと全うすることで。
中也をリアちゃんから離して連れていけば、それはそれでまんまと組合の思うつぼ。
ポートマフィアと探偵社だけでなく、街中のどこにこの子を隠そうとも、追いかけてくる。
ともすれば妖館になど行けるはずもなく、戦おうとすれば妖怪ないし、敵の餌食になるのがオチ。
まさか、中也…というより、あいつの中の神がそんなにも妖怪を牽制するほどの存在だなんて誰も思いはしなかったのだろうけれど。
「…確かに、中也君と行動してる時にはほとんど妖怪見なくなったもんねえ?相当強いか殺傷的な被害の無いようなのならたまに教えてくれてたけど」
ソファーから降りて、それから。
森さんが、私の向かいに座っていたリアちゃんを抱きしめた。
「…森さん、何してるんです」
「………どうして、僕のこと責めてくれないんだろうって」
確かに、そう。
いや、いつもこうなのだ、この子は。
『……リア、ポンコツだから』
「そんなわけない…そんなことないんだよ、リアちゃん」
自分のせいだと、思うんだ。
何もかも。
己が至らないせいだからと。
「…まあ、なんにせよあれだね。いつでも、“僕”のところ来てくれていいから」
『……迎えには来てくれないんだ?』
「それは帽子置き場の仕事」
