第8章 タイムリミットとクローバー
悟りの能力者の“嫌な予感”というものは的中するもので、それが今になって、彼女が考えられる限りの手を尽くしたところで、これだ。
「昼間の内にカタをつけるのは?」
『私の肉を狙う者が先祖返りや人間の中にもいるってこと、忘れてない?』
「そりゃ余計に厄介だ、下手をすれば最悪反ノ塚くん達にまで被害が及ぶ」
先祖返りならば、あそこの結界はスルーされてしまうから。
多勢に無勢、そんな勢力図が出来てしまうかもしれないのだ。
「…Qの奪還に、他に適任者」
『……物理攻撃があまりにも部が悪すぎる。それに再生能力もある相手に誰が太刀打ちできるの』
「わかった、あの蛞蝓の分身で『分身に汚濁の力は扱えないわ』…成程、同じく分身が人魚の力を扱うとしたら、その分人魚のにおいが濃くなるわけだ」
一度人魚に完全変化した上で分身するのだから。
集まる妖怪は、時間が経てば千どころじゃなくなるのだろうし。
「リアちゃんと中也君が二人共行ったら?」
『それでどうにもならないから言ってるんでしょう???』
「ゴメンナサイ」
責任の一端どころかほぼ元凶のようなものだからか、森さんに覇気が一切感じられない。
そりゃあ取り返しのつかない事態ではあるが。
「……被害が一番少ない方法が、さっき言ってた結果だよね?私としても、それが最善だと思うけれど?」
『…嫌、って言っていい、?』
そりゃあ、そうだ。
そんなものまで抱えてたなんて、知るわけないだろう。
誰にも悟らせてなんてくれないんだもの、この子。
今まで、誰も聞いてあげなかったんだもの。
「いいよ…なんでも聞いたげる」
聞くことしか、できないけれど。
『だから、だから…死なせないでくれたら、いいよ…?…っ、だから、ね…っ…中也さん、のこと…、助けて…ッ』
「…約束する」
君が、自分の命を、犠牲にしないでいてくれる道ならば。
その先にある未来に、もう少し期待ができるかもしれないならば。
「だから約束してリアちゃん。君、絶対に勝手に死なないで…いい?」
『!!…っ…自殺マニアが何言って、』
「どうしようもなくなったら今度こそ心中でもなんでもしてあげるから」
彼女が目を丸くさせて、こちらを向く。
ああ、食いつくと思った。
だから選択肢になんてしたくなかったのに。
『……中也、さんがいい』
笑って、振られるから。
