第2章 桜の前
結局カルタはやはりすぐに帰ってきたらしく、連勝からまた連絡が入る。
だから、もう外に用はない…はずなのだけれど、中原さんは私のことを離そうとしない。
…いや、私が離したがっていないのかもしれない。
「首、赤くなってんぞ。しめられてたろ、それ」
『……ごめん、なさい』
「謝ることじゃねぇだろ別に」
『だ、って…中原さ、ん……手、痛かったでしょう…?』
手袋で見えはしないけれど、それでも。
素手だったのなら、痛かったはずだ。
私が変な意地を張ったから…私が早々に諦めて中に捕まってしまったから。
「何、んなもん気にしてくれるほど優しかったっけお前?痛くも痒くもねぇよこんなもん、気にすんな」
『…でも、やっぱりこんな…私のシークレットサービスなんて、するもんじゃ「俺が手ぇ引いて、お前が怪我でもすっと後味悪ぃんだよ」…』
「いいから…護られてりゃいいんだよ、世間知らずの嬢さんは」
完敗だ、こんなの。
適うはずない。
「あとそれから、気持ち悪ぃから中原さん呼びやめろ。敬語も禁止、お前俺の主だろうが」
『…言ってること、違う』
「主従関係結んだからにはそれなりにもてなしやがれ」
『……っ、…中也…』
初めて、その人の名前を呼んだ。
呼んでみたかった…本当は、他の人達みたいに中也さん、って。
親しそうに、したかった。
だから、軽口をたくくらいのことしかできなかった。
私の事、見てくれそうな気がして…期待、してた。
「今間違ってさん付けしかけてたろ手前……なんだよ、リア」
『!…部屋までおんぶ。……あと、その……ありがと』
「…どういたしまして。やりゃぁできるじゃねえか」
よくできましたと言わんばかりに、少し乱雑に撫でられる。
髪が乱れるとかそんなことはお構い無しに、嬉しかった。
こんなに嬉しかったのなんて、何年ぶりなんだろう。
一度私を降ろすのかと思いきや、彼の異能力で重力を操作され、そのまま背中に回される。
あったかい…
『着痩せするのね…触れてみたらやっぱり脳筋だ』
「地面に叩きつけんぞ手前。いいだろが、鍛える分には」
『…私も鍛えようかしら』
「馬鹿野郎、女子供が体壊すような真似すんな」
『その子供と身長ほとんど変わらない人に言われたくないです』
「言ってろクソ餓鬼、そこで身長止まんのは手前の方だよ」