第3章 口寂しさを紛らわせて
『ねぇ。煙草吸わない方がいい?』
てっきり煙草を吸い始めたと思ったのに、驚いて彼を見れば、少しだけバツの悪そうな顔をして私を見つめていた。
「なんでそう思うの?」
『だって煙草嫌いだろ、お前は』
「そうだけど、でも...」
『俺さ、煙草を好きで吸ってたんじゃないんだ』
「え?」
『何となく...口が寂しくてさ、煙草に手を出したら止まらなくなっただけなんだよ。ダサいだろ?』
なんて。
ジンは、自嘲気味に笑う。
そして私の手を取って、距離を縮めた。
『だからさ。今度からはお前が俺の寂しさ埋めてくれる?』
そう言ってジンは私の胸に顔を填めた。
"寂しさを埋める"
私は寂しいなんて思ってなかったけれど、彼はそう思っていたなんて。彼はいつも自分のことより先に私のことを優先させるから、あまり彼自身のことを聞く機会が無かった。
今日、こうやって聞けて、昨日よりもさっきよりももっと彼のことを大好きになった自分がいた。
「っちゅ、」
私から彼を上に向かせて唇を合わせると、彼は目を嬉しそうに細めて、私の後頭部に手を当てた。
「んっ...ふぁ、ジンっ」
『ふ...っ、そう、上手』
でもやっぱり一枚上手な彼にすぐ翻弄されてしまった。
彼の手は、私の敏感なところをまさぐり、的確に刺激していく。その度に私は淫らな声を上げることしか出来なくなり、いつの間にか彼の熱にまた溺れて、この瞬間をもっともっとと求めるようになる。
私が彼の唇に口付ける度、彼も私の事を求めてきてくれる。
さっきまでの荒々しい行為よりも、とても濃厚で幸せな気分になった。
・
『俺が口寂しい時は、煙草じゃなくてお前を食べることにするね?』
お互いにくたくたな身体をベッドに沈めて、彼は私を抱き寄せて言う。その甘い微笑みは、私を溶かすのに十分過ぎた。
「私も、口寂しくなったらジンのこと食べよっかな...」
『もう。そんなエッチな事、他の男に言っちゃダメだよ?』
向き合って笑い合う夜は、いつもより特別に思えた。
~ fin ~