第1章 財前光
「ラーメン、食いに行くぞ」
と、ぶっきらぼうに財前が誘ってきた。
馴染みのラーメン屋に入り、
いつもと同じメニューを頼むと
ホッと心の緊張が解ける。
ガヤガヤと賑わうラーメン屋で
ビールと黒烏龍茶で乾杯し、
私が食べ切れないからと云う理由で
二人で一皿にした餃子をつまんだ。
安定の美味しさに一人で一皿イケたな…と
思っていると彼は察したのか
「餃子、もうええわ」
と箸を置いて残りを私に譲ってくれた。
こんな日はいつも優しいね
って言うとそんなんじゃない
ってツレない言葉が帰ってくる。
「でも、私が仕事の事で
落ち込んでたらいつもここに来るじゃん」
「たまたま食いたくなっただけや」
お前のたまたまは毎回だな!って
肩を叩くと案の定「だるい」と、
迷惑そうに冷たくされた。
「今の仕事したくないなぁ」
「ふーん」
「ねぇ、財前くん」
「…うっさい」
この冷酷人間め!と、
彼に罵声を浴びせていると
汗だくの店員がラーメンを二つ運んできた。
「いただきまーす」と、
一口美味しい物を食べれば
今までの嫌なことなんてすぐ忘れて
全てがどうでも良くなる。
「美味しいね」と一声掛けると、
その後は二人ともラーメンが伸びないように無言で啜った。
こってりスープを全部飲み干したい所を
グッと我慢し彼が大盛りラーメンを
食べ終わるのをひたすら待つ。
「別に、寿退社してもええんとちゃう?」
ふいに声を掛けられ、
彼の方をちらりと見ると、
丼に直接口を付けスープを飲み干す彼の顔は隠れて見えなかったが隠しきれないほど耳が赤くなっていた。
end