第15章 その瞳の燐光
「生前のままに美しく縫合された蝋のように白い肌、姦しく騒ぎ立てる事も、嘘を吐く事もなくなった口…ヒッヒッ…生きてた頃よりずっと美しいだろう?ねェ?マリアンヌもそう思うだろ…?」
「(…あっ……んん……)」
マリアンヌの頬を包みながら後ろを向かせるとニコリと口角を上げながらそっと唇を重ねるアンダーテイカー。
「吐き気がする!」
「君はそう言うけど…このビザール・ドールを欲しがる人間もいるんだよ?」
「!?」
「この子達は痛みも恐怖も感じない。ひたすらに魂を求め生者を食らう…どうだい、最高の動物兵器だろう?」
「……!?」
「なっ!?」
ー動物兵器ー
その言葉にシエルもセバスチャンもグレルもロナルドも驚愕だ。
アンダーテイカーの研究は、人間界の生死に関わる干渉だけに留まらず、世界の定められた歴史そのものをひっくり返してしまえる程の、とんでもない代物を造りだしていたのだ。
「その酔狂な連中がコレがどの程度使えるのか見たいって言うから…豪華客船に同数の人間と“ビザール・ドール”を放り込んで実験してみることにしたんだ。殺し合わせてどちらがどの程度生き残るのか?ってね…」
アンダーテイカーが依頼を受けたオシリスという企業からの裏の実験。
それはこのビザール・ドールと人間を、この豪華客船の中で殺し合わせる事だったのだ。
「……壊れてますね…」
眉間にシワを寄せそう吐き捨てるセバスチャン。
「壊れてる?失礼しちゃうね。壊れているのは小生じゃあない…君達人間の方だろう?」
そう…どこの世界も、いつの時代も人間とは誠に滑稽だ。
自身の地位や名誉、財産を守ることに必死で、そのためだったら他人の命を奪う事さえ厭(いと)わない。
最高に悲劇的で利己的で滑稽な存在。
それが人間だ。
「ヒッヒッ…でもまさか氷山にぶつかるなんて思ってもなかったよ。死神を辞めた小生はもうリストを待ってないし…あぁ、でも沈没させる手間が省けて一石二鳥だったけどね〜」
そんな利己的で悲劇的な人間同士が殺し合いをするのだ。
アンダーテイカーはマリアンヌを撫で回しながら、我関せずと涼しい表情だ。