第15章 その瞳の燐光
「全ての生物は本能的にかけたものを埋めようとする。身体に傷ができれば塞ごうとするし、精神が孤独を感じればそれを埋めるために他者を求める。」
「(………)」
ー本能的に欠けたものを埋めようとするー
アンダーテイカーの研究の話はあまり聞いた事がないが、今の言葉はマリアンヌの胸にズキリと響いた。
あの日、切り裂きジャック事件で精神を崩壊させたマリアンヌは、狂った様にアンダーテイカーの身体を求めた。
きっとあの時の自分は本能的に欠けたモノをアンダーテイカーで埋めようとしていたのだろう。
「だから彼らも本能的に欠けたもの…“魂”を求め生者の身体を開こうとする。終わらない走馬灯(シネマティックレコード)の帳尻を合わせるためにね。」
「!!だから目も鼻も効かないのにぼくらの魂を追って……?!」
シエルはアンダーテイカーの話でやっと動く死体のメカニズムが理解できた様だ。
「…他人の魂なんて自分のモノにできるワケないんだけどねェ…」
「(…アンダーテイカーさん……)」
アンダーテイカーの黄緑色の瞳が少しだけ憂いを帯びた。きっと、代々その生涯を見守ってきたファントムハイヴ家の事を思い出しているのだろう。
「でも小生はレコードは弄れても魂までは造れない。たくさん実験してみたけどほとんどの子は自我を持たない肉人形にしかならなかった。」
そう…この研究はまだまだ途中。
自分の命が散り行くその時までマリアンヌを失わないためには、魂を保管しておく方法や、まったく同じ魂を造り上げる技術が必要。
今の段階では自我を持たずにただ“動かす”事しかできない。
「だから小生は彼らをこう呼んでいる。生者でもなく、死者でもない。“歪んだ肉人形(ビザール・ドール)”とね…」
「悪趣味にも程があるな…!」
「ヒッヒッ…この美しさが分からないとは伯爵もまだまだだねェ〜〜〜。」
アンダーテイカーはマリアンヌを後ろから抱きしめすっぽりと腕の中におさめると、厭らしい手つきでその身体を撫で回しながら続けた。