第8章 死神との生活
1ヶ月後には雑用に加え、本格的にアンダーテイカーの仕事を手伝い始めた。
葬儀の依頼が入れば正装で出向き、検死の依頼が入れば助手としてアンダーテイカーの横に立ち、裏社会の情報を欲しがる客が来ればお茶を出し接客をする。
アンダーテイカーの所にやってくる死体はみな“ワケあり”なモノばかりなため、最初は目眩をおこしたマリアンヌだったが、よくよく考えれば死体は動かないし喋りもしない。
この死体達は、自分の背中に傷をつけていった残虐非道の変態でははい。そう考えれば死体などかわいいものだと、検死の助手もすぐに慣れ、アンダーテイカーの仕事を精力的にこなしていった。
「マリアンヌがきてくれてからは小生の仕事が面白いようにはかどって助かってるよ〜ありがとう。」
「(こ、こちらこそ…ありがとうございます……)」
マリアンヌは不思議な感覚だった。
今までは命令されるがままにこき使われ、命令されるがままに男に傷つけられてきた。
それでも誰もマリアンヌを労う者などいなかった。
それがあたり前の日々。
しかし、アンダーテイカーに拾われてからは、この店での仕事を手伝えば、必ず労いの言葉をかけてくれる。
なんてない一言だ。
でもその言葉の1つ1つはマリアンヌの中のかたく閉ざした感情を少しずつ解きほぐしていくような感覚を与えていく。
それともう1つ。
もうこの店にきてから1ヶ月がたつというのに、アンダーテイカーが夜マリアンヌの部屋に訪れる事は一度もなかった。
住むところに、仕事に、沢山の美しい洋服達。
どんなに綺麗事を言ったって所詮男だ。
マリアンヌは色々と与えられた代償に身体で支払わされるものだと、少なからず思っていたのだが……
この様子だと本気で手を出すつもりは無いようだ。
それは、アンダーテイカーの優しさ故か…
もしくは使い古しの娼婦の身体など、不要なのであろうか……
今のマリアンヌにはそのどちらかなんて、分からなかった。