第3章 隠家
《な……てこ……!!》
《ひ…ご……!…と…ろ……!!》
《…けん……、そ…に…し……だ…》
だれ?だれなの?
《お……はこ……お…て……ない》
どうして?私は何も…
《こ…い……わい…》
違う…私はただ頼まれてやっただけなの…!彼だって…
《ひとごろし!!》
「「「「「違う!!!!!」」」」」
「…っ!?はっ…はぁ…」
見上げる天井は、何時ものものでは無い。
辺りを見渡せば、知らない部屋だ。妙に殺風景で机、椅子、そして今迄眠っていたベッド、本棚。最低限の物が置かれている。
自分の部屋ではないーーー優凪はその事に驚いたが、直ぐに記憶の棚を漁る。
…そうだ。ここは織田作さんの家だ。
自分がベッドで眠っているのも、彼がソファで寝るから大丈夫だ、と言って聞かなかったからである。
やっと回転するようになった思考で、優凪は此処が安全な場所である事にひどく安心した。
先程のは夢だろうか?大勢の人から罵られ、迚も不快で気持ち悪くて…
そして何処か、哀しい。
《何が??》
自身に問うても、分からなかった。分からないのなら、これ以上考えてもきっと意味が無い。額に手を当てるとそこには冷や汗ーーこそ無かったが、代わりにやけにひんやりとした肌が感じられた。
起きよう。
優凪はベッドを抜け出し、椅子に掛けてあった換えの衣服に身を包んだ。今着ていたパジャマもこの衣服も、昨日のうちに自分の鞄に入れて置いたものだった。
同様に椅子の上に置かれた鞄にも目をやる。
筆記用具、携帯、1週間分の生活費の入った財布、衣類、等々
簡易的な宿泊セットが入っている。
抑も昨日はぶらぶら数日過ごしてから死ぬつもりだったのだから、当然と云えば当然ではあるが。
(何も盗られてないみたい)
あの織田作さんの事だ、多分そんな事しないと思うが念の為、である。
昨日何度も助けられ、信頼こそしているもののまだ完全には疑念を捨てきれていないのだった。
勿論、信じたい気持ちはある。しかし昨日襲撃を受けた事といい、警戒せざるを得ない状況なのは変わらない。
その上、言っては何だがーー織田作さんの《正体》が分かっていない、というのもあった。
昨日の難なく銃弾を避けきり、かつ如何やったかは不明だが襲撃者撃退しに行った事と言いーーかなり戦闘慣れしてるようだ。