第2章 仮初
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「エリスちゃーーん!エリスちゃーーーん!何処に行ってたんだい!?!?鬼ごっこしましょう、私がオニだからリンタロウ逃げてね?なんて云って私を置いていくなんて!!」
酷いよ〜〜、と泣き崩れる中年男と、ニコニコしている外国人らしい美少女。
その組み合わせに、往来の人々は否応にも気になってしまう。
見れば男性はスーツに白衣を着ている。恐らく医者なのだろう。
対する美少女ーーエリスはと云うと。
「リンタロウ相手だと詰まんないから、他の子にオニになってもらったの!」
「ひ、酷い!!酷いよエリスちゃん!!しかも他の子って誰だい!?私にはエリスちゃんだけなのに!!」
悪びれずそう主張するエリスに男性の嘆きが一際大きくなった。通行人はいよいよ迷惑そうにその二人の周囲を避けて通る。
「善いじゃない、中々外にだしてもらえないんだもの」
「それは申し訳ないけどねぇ…。今の状況は色々と不味いんだよ、エリスちゃん…」
ふーん、と話を聞き流すエリスと肩を落としてしょぼくれる男性。立場の差は明らかだった。
「でも、リンタロウの捜しものは見つけたんだから!」
後できっと迎えに来てくれるわよ、とエリスはニッコリ笑った。
「私の仕事の事も考えてくれていたのかね!?矢張り君は私の天使だよエリスちゃん!!」
「ちょっと!!こんな所で高い高いなんかしないで!!」
全くその通りだと、周囲の人々は内心で同意した。
二人は並んで、再び買い物へと戻っていく。
男性は薄く笑うと、探しもの…ね。と呟いた。
それはエリスと同じ、玩具を見付けた時の顔ーーー
「リンタロウ、早く!荷物持ちでしょ!?」
「ハイハイ」
そして、いつの間に隠れていたのか。もう1人の荷物持ちが現れた。黒髪の蓬髪に、怪我をしているのか顔も身体も包帯塗れ。
スーツをかっちりと着こなした少年の瞳はーーー
昏く、澱んでいた。
「君も着いてきたまえーー太宰君」
「……はい」
太宰と呼ばれた少年は、エリスと医者の男性と共に街を闊歩して行く。
エリスが高級ブティックの買い物をしている間、彼は警護の役目を担っていた。
町医者とはいえ、「ポートマフィア」の首領の担当医を襲撃するものなど、恐らく居ないだろう。
太宰は通りを往く人々をぼんやりと眺めていた。
退屈だ。全てのものが、詰まらない。
その前を、二人の人物が横切る。
