第25章 〜毛利蘭の苦悩〜
此方のレストランは食事がバイキング制で、彼らは一度予約席につくとまずは蘭と絵理が食べたい物を取りに行く事になった。その間、コナンは小五郎と二人で予約で当たった最奥のテーブルに座り、荷物の番を務めて蘭達が戻った時に交代となる。そしてレストランは50階あるホテルの40階に位置し、毛利一家は窓ガラスから中層ビルが並んだ街を一望出来る席なのだ。小五郎は都会の景色をつまらなそうに見ては未だに不機嫌そうに頬杖をついており、向かいで母子が仲良く料理を選ぶ背中を眺めるコナンが喧嘩についてやんわりと物申す
「ねぇ、おじさん。もう意地なんて張ってないで、絵理おばさんとよりを戻そうよ」
「ケッ!てめぇまでその話か、俺らはこれでいいんだよ」
「だけど、蘭姉ちゃんが寂しがってるって知ってるでしょ?本当にいいと思ってるの?」
「ぐぐぅっ……」
コナンがじっとり責めるような目つきで小五郎を問い詰めれば、彼は少し気まずそうに目線を晒して小さな呻き声を上げていた。そうして申し訳なさげな態度で黙りこくった小五郎に対し、もう一押しだと暫く見つめてコナンが強請って見ること数十秒。さすがに痛すぎる沈黙が耐え難くなって、小五郎は遂に深すぎる溜息を吐き出した
「ハァ〜……あのなぁ坊主。俺と絵理も、娘の気持ちを無視したいわけじゃねぇよ。心底申し訳わけねぇって思っちゃいるし、反射で起こった喧嘩で嫌な気分にさせてる事も分かってるさ……。けどな、俺らはぶっちゃけ今が自然な距離感だって安心できて割り切れてんだ」
「……え?」
「つーか、お前も蘭も俺ら夫婦か幼馴染だって知ってるか?俺らはずっと互いに不満があると意見が分かれてすぐ揉めた。だからお互い主張を曲げる気ねぇし、遠慮が無ぇからこその信頼があって一緒になったんだ。ぶっちゃけ、今も俺と絵理は別居で離れてたって夫婦でいれる誇りと想いがある。こうして大事な娘もいるし、家族に何かがあれば一緒に助け合える絆もあるからな。そこんとこ、きちんと通じ合わせて円満に別居してんだよ」
「そ、そうなんだね……」
結局、躊躇いの末に溢された夫婦の事情は、聞いていて圧倒されるほどに奥深い話だった。常からぶっきらぼうな小五郎なのだが、蘭とコナンが考える以上に愛情深いし、家族の絆を信じて円満な関係を維持しているだろう。彼らは喧嘩をするほど仲が良い関係なのだ
