第24章 〜疑わしきは、誰なりや〜
「ベースとなるもの?何もない?」
「個として成立される基本、プロフィールと言えば分かりますか?五感から認識させる外見的な情報、当人の中で芽生える性質、後は社会的に残されるべき痕跡……。それらは誰かを分析するにあたり、無意識で脳が整理していく記憶です。人を凡ゆる面で知覚し、己の中でその存在を受容し、呑み込んでいくーーー」
沖矢達は麻衣の言葉を意識を研ぎ澄まして聞いていた。普段の何気ない行為を言葉で整理され、一層鮮明になった違和感に頭痛がしそうだった。塗りつぶされた黒の、更に向こう側が見えない。知覚出来ない恐怖が再びコナン達に首をもたげ、這い寄ってきている気さえする
「……アレを全くの『無』です。この世に生を受けた者が持つべき楔、確かな存在証明と体の輪郭がぼやけている。故に、脳が本能的に何もない存在として察知した。実際に黒いモノでしかない、会話の意味も記憶も見出せないのは、アレが理解を超えた先にいるからです。計算で起こせる科学力と別枠なのは分かるでしょう?朧げに存在しているナニか。それ以上は説明のしようがない」
「そう……。だけど、私の一つ下の友達が言っていたわ。何事も基本は原因がないと成立しないって。アレもそうなんでしょう?」
黒に塗りつぶされた影は、死者も同然の存在しえない何かだという。沖矢もコナンも麻衣が言っている事は賢い頭脳で理解していたが、到底信じられないその現象に遭遇した事実を受け入れる事は容易ではなかった。しかしそんなリアリスト達を他所に、早々に抵抗もなく話を飲み込んだ灰原が次いでそう問いかける
何事も基本は理由がないと成立しない。コナンも沖矢も、灰原のーーー宮野志保の友人である、麻衣の持論には異議がない。麻衣はそんな彼らに困った笑み浮かべ、けれど誤魔化しはせずに肯定として頷き返した
「……そうですね。世の中には多くの神秘や謎があります。解明できる技術が無いもの、科学的な証明が出来ないものが多く存在します。貴方方が目撃した黒い影もそう、あれは米花町の環境や人々による強い影響を受け、不審者を模して感情もなく活動している。ですが誰かに危害は加えて事件を起こす存在にはなりえませんし、見た目だけが不気味なだけですよ」
「まるで現実とはかけ離れた話ですね。米花町に原因があるとはどういう事ですか?」
