【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第5章 叶わなくても
地下駐車場に着き、手を引かれてエレベーターに乗る。
いつもと同じなのに、もう二度と戻れないような気がした。
石のように重くなった身体で部屋に踏み入れると、“R”は凍りそうなほど冷たい眼で私を見据えて言った。
「リサ・・・どうして私が、ここを出てあんな安アパートに住むことを許したか分かるか・・・?」
「・・・・・・・・・」
私は何も言わなかった。
彼は私の意見など求めているわけではないのだ。
「お前がずっと従順だったからだ。お前は今まで私が命令したことにも、ゲストが要求したことにも、一度も逆らったことは無かった。顔を覆って涙を流すことはあってもだ」
私が俯いたままでいると、彼は私の頬を指でツツ・・・となぞり、顎を掴んで上に向けさせた。
私の足は釘で地面に打ち付けられたかのように、そこから動かなくなっていた。
「お前は今朝、まだ行為の途中なのにホテルから逃げ出したそうだな」
“R”が私の身体をベッドに引き倒し、巻いていたマフラーを床に投げ捨てた。
「!」
無意識に落ちていくマフラーに手を伸ばしたけれど、すぐに慣れた手つきで手錠をかけられ、鎖をベッドに固定されて動けなくなった。
「・・・逃げた理由はこれか?」
“R”が剥き出しになった首筋の痣に指を這わせた。
「少し首を絞められたくらいでなんだ。私が拾ってやらなかったら、今頃お前は薬漬けにされて道端で身体を売るような暮らしをしていたんだぞ」