第25章 キス…した、い。
「どうしたの?これ」
「花屋で買った」
床に広がるプランターやら土やら、それからスコップやジョウロまである。
机には何種類かの種が並べられていた。
「全部生薬として使える奴だ」
「へ〜」
聞きなれないものばかりで、エリナはついつい手にとってそれを確かめる。
「これ…全部お店の人に選んでもらったの?」
充実した栽培セットを眺めながら問う。
「ああ…やり方は面倒臭ぇから聞いてねぇ。お前なら分かると思ってな」
はいはい、つまりやれと言う事ですね。
「…でも種は一晩水に漬けた方が発芽しやすいのよ。だから明日の方がいいわ」
「…そうか」
短く返事をしたローは、棚から瓶を取り出す。
「これでいいか」
「そうね」
エリナはそれを持ってシャワールームへ向かい水を僅かに注いだ。
種を水に漬けていく様子をジッと見ていたローからご命令を受ける。
「世話はお前に任せる、枯らせんなよ」
「は⁉ローが買ったんでしょ⁉自分で世話しなさいよ!」
「俺は無知だ、お前の方が上手に育てるだろう」
「まぁ…そうかもしれないけど…」
そうなると、私は一日に最低でも二回この部屋に訪れなければならない回数が増える。
「お前が育てた方が植物も喜ぶだろう」
そんな台詞に気を良くした私は彼のご用命を引き受けるんだけど、なんだか都合良く利用されているような気がしてならない。
まぁいっか。
植物の世話嫌いじゃないし。
種を漬けた瓶を棚の暗がりへしまうとローは何やら分厚い図鑑を広げていた。
「買ったのはこれと、これだ。こっちは樹脂の粘膜に殺菌成分があり、こっちは葉をすり潰してペースト状にした物を、傷口の保護薬として使える。需要が多くて育てた方が切らさなくて済む、栽培はまぁやりやすいらしい」
「ふーん」
生薬の名前を読んでも全く聞いた事がなかった。
ていうかこの図鑑めちゃくちゃ興味あるんですけど!
「ねぇこれ貸して」
「あ?」
エリナの目はキラキラと輝いていた。
薬草生薬専門と言う未知なる図鑑がこんな近い所にあったなんて。
知らない植物を知れる貴重な機会だ。
エリナの頼みにローは何かを思いついたようでニヤリと笑みを浮かべた。
「一つ条件がある。俺にキスしたらだ」
何を言われたのか分からなかった。