第32章 口の悪さもそっくりだな。
朝から何と無く機嫌が悪いエリナをペンギンはいち早く気が付いていた。
「なんか怖い顔してんなエリナ」
ペンギンは海に沈む釣り竿の先を見つめながらぼそっと呟く。
「…そう?」
エリナも自分の竿のリールを緩々と引きながら答える。
ああ、やっぱりなんか怒ってる。
ペンギンはこの状況とは打って変わって穏やかなその海面を見つめた。
あらかた予想はついていた。
今朝の新聞。
あれは真実でもあるが加味され過ぎてる部分もあると思う。
きっと当事者はあれを見ても何も気にせず寧ろ面倒臭ぇ、暇な奴らだ、ほっとけ、などと素晴らしい程他人事だろう。
しかし違って女ってのは人の目や細かい所を気にする生き物だ。
「…新聞見たけど笑えたな〜、できてるも何も同じ船乗ってんだから」
「ええ、まぁ分かるのも時間の問題かもね」
「………」
トーンに変化のない声色で眈々と答えるエリナを横目にペンギンは苦笑いする。
こりゃ冷戦なると考え、重い空気を打開しようと決心した。
「まぁその…スキャンダル記事なんていい事書かれないし、キャプテンの女遊びが派手なのは確かだけど…エリナは違うと思うぞ?みんなびっくりしてんだよキャプテンの変化に」
エリナの片眉がぴくりと動く。
そしてペンギンの困ったような横顔を知った。
「変化?」
「ああ、俺はエリナとキャプテンが出会ってすぐ分かった、ああキャプテン惚れてんだなって」
「………隅に置けないわね」
「俺も伊達にキャプテンの側にいる訳じゃねぇからな〜、お、きたきた」
釣れた魚を針から外しバケツに投げ入れるペンギン。
さっきから好調にヒットしているのに隣のエリナは全然釣れない。