第7章 近づく距離
髪を乾かしてストレートにして、下着に少しだけ香水を吹いて着替えて、顔はほとんどノーメイクだけど、眉はちゃんと足したしお肌はしっかりお手入れしてUVのケアもした。
好きな人に会うのにちゃんとお化粧できないのは不本意だけど…仕方ない。
自分の用意が整って、タキシードをクロークから外そうとしたところに丁度チャイムが鳴った。
『はい』
「俺だ」
一応ドアスコープを覗く前に返事をすると会いたかった人の声
ドアを開けて
少し視線を上に上げると大好きな人の優しい顔。
「久しぶりだな。仕事お疲れ」
電話越しでもドア越しでもない、直接鼓膜に届く低くて優しい声に会えた喜びが込み上げてくる。
「久しぶり。ネロ君大丈夫?不貞腐れてない?」
会えてうれしいって出かかるのを寸でのところで我慢して、青峰君がすごくかわいがってるのにあたしのせいで寂しい思いをさせてしまう可愛い子のことを聞いてみた。
「アレックスに預けてきたから多分大丈夫だ」
「アレックスってロスじゃないの?」
「いや、今はクリーブランドの女子のチームでコーチしてる」
「そうなんだ。あ、タキシード今度こそ渡せるからね!」
渡しちゃったらきっともう会うこともなくなっちゃうけど、返さないわけにいかないもん…
寂しいけどちゃんと返さなきゃ。
奥のクロークからタキシードを出して確認してもらうためにカバーを開けた
「チーフはこっちに入ってるからね」
あの時チーフにも生クリームが付いてしまって、チーフも一緒にクリーニングをしてもらっていた。
二次会でしてたエンジのチーフとタイもすごく似合ってたけど、王道の白いチーフのブラック・タイも本当にかっこよかった。
「ありがとな。助かった」
「こちらこそ本当に助けられました。コーヒーにまみれてたらきっと大騒ぎだったもん」
「それもそうだな。火傷しなくてよかった」
あの時もあたしが怪我してないかって心配してくれた。
ホントに…最初から優しかったな…
「本当にありがとう」