第2章 直感

もらってきたお花を花瓶に挿すと、式を思い出してまた泣きそうになってしまう。

気を取りなおして、上機嫌なさつきに何か飲ませようとキッチンに行くと、いつも飲んでる紅茶が目に入ってさっきの出来事が鮮明に蘇った。


鼓膜を刺激する少し焦ったような低い声と腰を支えてくれた大きな手、抱きとめてくれたしっかりした胸板、エントランスで話した時の優しい低い声。

青峰さんを思い出して顔が熱を持っていくのが分かる。



頬に手を当てて息を吐き出すと同時に、チャイムがなってハッとした。

何考えてんだろ…

思い出したことを振り払ってインターホンを見ると黄瀬くんで、ロックを解除して招き入れると美緒の忘れ物を持ってる。


「よかったらそのままここにいる？」

「いんスか？」

「もちろん」

黄瀬君のも一緒に3人分の飲み物を用意すると黄瀬くんの一言で、またさっきのことを思い出すことになった。


｢今日は紅茶じゃないんすね。みさきっちが紅茶以外飲むなんてちょー新鮮｣

「あ…茶葉が……なくて…」

毎日飲むからそんなこと絶対ないけど、いい言い訳がなくて変なことを口走るあたしに黄瀬君が追い打ちをかけてきた。

｢てか、さっき大丈夫だった？青峰っちがいなきゃヤケドしてたっスよ？｣

｢あ……大丈夫っ。びっくりしすぎて1歩も動けなかった｣

さっきもその事を思い出して1人で赤面してましたなんて口が裂けても言えない。
バクバクと動く心臓を必死で落ち着かせながら、絶対黄瀬君を見ないように、意味もなくソファのクッションを整える振りで気を紛らわした。

さつきはすっかり酔いが冷めたみたいで黄瀬くんの言葉にうんうんと頷いてて、これ以上この話題を続けられたら心臓が口から飛び出してしまいそう。


｢そろそろ時間だし、降りよ?｣

無理矢理だったけどこの話題を続けるのは自分が持たない。



下に降りると既に車は到着して待っていてくれて、快適に保たれている車内は熱を持ちっぱなしの顔を心地よく冷やしてくれた。

｢ねね、2人っていつから同じマンション？｣

｢え、いつだろ。あたしは帰国してからずっとあそこだよ｣

｢じゃあ俺のが後だ。1年くらい前に引っ越したんス｣


よかった…

あのまま話題を続けられたら本当に心臓が持たない。

話題を変えてくれたさつきに心の中でお礼をした。