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最愛 【黒子のバスケ】

第18章 劣等感


体験は途中で切り上げさせてもらった。

入会をするなら入会金に体験料も含まれるって事だったけど、あたしは体験料だけを支払ってそのトレーニングスタジオを出た。


あたしが甘えてるっていうのも確かにあるのかもしれない。

けどあたしが心拍数を上げない理由を話して、尚且つあの言動は受け入れられなかった。


強い人であれば受け入れられたのかもしれないけど、あたしには無理だった。


青峰君が仕事が終わってるかは分からなかったけど、帰りは電話をするようにって言ってくれてたから迷わずに番号をタップした。


甘えたかった。


少しでも早く優しい青峰君に会ってぎゅってして欲しかった。



コールが3回鳴って青峰君と電話が通じた。


「終わったか?」

「うん。青峰君は?」

「これからリハビリだけど、迎えにはいかれる。位置情報んとこだろ?」

「ごめん。出ちゃった…」

何となく外の空気を吸って落ち着いてからじゃないと泣いてしまいそうで、スタジオを出て少しだけ歩いたから位置情報とは違う場所になってしまった。


「すぐ行くから、分りやすいとこにいろよ」

「うん。じゃあ少し行ったところにあるカフェの前にいる。位置情報送るね」

「あぁ。まだ時間あるし俺もなんか飲むから中入ってろ」

「うん」


青峰君との電話を切って10分くらい歩いてカフェに入ると、コーヒーの匂いがして、店員さんにも勧められたけど、いつも通り紅茶にしてアールグレイを頼んだ。


頼んだ紅茶を持って席に座ると、向かいの通りのパーキングに車を停めて降りてくる青峰くんが見えて、すごくホッとして泣くつもりはなかったのに勝手に流れた涙を慌てて拭いた。


お店に入ってきた青峰君に近づくと、サングラスと帽子はしたままだったけど口元が笑って、すぐに手を握ってくれた。

「おかえり。何飲んでんの?」

「ただいま。青峰君もおかえりなさい。アールグレイだよ」

「ただいま。なら俺もそれ」


普通の会話なのにすごく心が癒されていく。


言葉が紡ぎ出される度に心に刺さったトゲが抜かれていくような感じがして、さっきまでの尖った気持ちが丸くなっていく。

青峰君が飲み物を受け取る頃には、小さな店にいた全員が青峰君に気付いていたけど、今のあたしはそんな事を気にかけられるゆとりがない程青峰君に甘えたかった。
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