第8章 年中行事〜母の日・父の日〜
〇父の日
母の日のあれこれから約1ヶ月後。僕と悠一はある人物の所へと向かっていた。
「...、喜んでくれるかな」
「...なら絶対喜んでくれるよ。もう少し自信持ちなって」
「うん」
いつも忙しいあの人は、きっと今日も変わらず忙しい。目的の人物の元へ向かう道中でも、その人の部屋から出てきたと思われる人物は何人もいた。そのほとんどの両腕に書類の山を抱えていた。
「今日も忙しそうだね」
「まぁ、あの人は仕方ないよ。そういう立場の人なんだしさ」
そう言われればそうだ。だが、それが今は不安材料になる。今行っても相手にして貰えないんじゃないかと。
「出直そうかな」
「ここまで来てそれはないでしょ。それに、ちゃんとアポ取ってるんだし大丈夫だって」
「うん...」
目的の場所に着き、ノックをするとどうぞと落ち着いた低い声の返事が聞こえる。
「失礼します」
「失礼しまーす」
「そこのソファに掛けなさい。忙しくて何も出せないくて悪いが」
「そんなの気にしなくていいよ、城戸さん。俺達も用が済んだらすぐ帰るし」
この部屋の主、城戸さんはよく見ればわかる程度に申し訳なさそうな顔をする。しかし、次の瞬間にはその表情はいつもの顔に戻っていた。
「それで、アポ取ってまでわたしに何か用事かね?」
ソファに腰掛けつつ、要件を尋ねられる。悠一とアイコンタクトし、サッと、後ろ手に持っていた花束とオシャレな紙袋を前に出す。
「「いつもありがとう。城戸さん」」
「!」
鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔と言うんだろうか。いつもなら見れないレアな顔だ。
「...今日は、父の日だったか」
「そうそう。俺にとっては城戸さんが父親みたいなもんだからさ」
「僕と蓮琉のお父さんは生きてるかわからないし、帰ってきたら溜まった分だけ感謝を伝えるって決めてるんだ。だから、それまで僕達のお父さんは城戸さんだよ」
「...そうか。ありがとう」
目の前に出された花束と紙袋を受け取り、城戸さんが少し笑みを浮かべる。怖い顔してばかりで表情筋死んでるんじゃないかと思ってたけど、そうでもなかったみたい。
「お前達に感謝される日が来るなんて思ってもみなかったな」
「この後もっと驚く事が待ってる。って俺のSEがそう言ってる」
「表情筋が壊れちゃうんじゃないかってくらい驚かせてみせるから、楽しみにしてて」
