第19章 記憶
「…花奏?」
「あ、ううん。なんでもない」
カカシは3代目に顔を戻した。
語気を強める。
「3代目、イタチの捕捉許可を。アイツは、うちは一族の誰かに手をかけたはずです。ただ数は…わかりかねますが」
「……うむ」
ヒルゼンはキセルの灰をトントンと灰皿に落とした。火を灯し、再び煙があがる。
「うちは一族、のべ196名の遺体を確認しておる。いま根の者が遺体回収をしておるはずじゃ。もう終わる頃かの」
「……は?」とカカシ。
私は目を剥いた。
うちは一族は、約200名未満の人数が隔離された街で住む。196名だとほぼすべての数になる。
猿飛ヒルゼンはキセルを吹かす。
淡々と話す火影に、カカシは目を疑う。
「……3代目、イタチは怪我をしている。暗部全員でやれば仕留めれます」
「やめておけ。おぬしやテンゾウは任務後じゃ。チャクラも残っておらぬ。死に急ぐだけじゃ」
3代目ヒルゼン様は、カカシに「決して今、追うてはならぬぞ」と念押しした。
下唇を噛んだカカシ。
納得とは、ほど遠い表情を浮かべる。
「全滅ですか?」
「いや、ひとりだけ生きておる」と3代目は言う。
「イタチは、自分の両親も殺害したようじゃ。ただひとり、サスケだけは殺しておらぬ。それだけが幸運じゃったな……」
キセルからふぅと吐いた煙りは
天井へと登る。
「アイツに関わることを、今後いっさい認めん。これは上層部全員の決定事項でもある」
「っ!?…しかし!」
「カカシよ、もう下がるがよい。疲れたじゃろう。皆のものも、さがって良いぞ」
3代目は席を立ち、背を向ける。
話は終わりだと
強制的に切り上げたのだ。
「……失礼します……」
テンゾウやカカシが、
次々と扉へ向かうのに、私だけが動かない。
「3代目………イタチは…泣いていましたよ」
「そうか……」
3代目はそのまま閉口して
ため息を吐いた。
深く深く…
悲しみを背負ったような背中。
大きな窓から映る、
うちは一族の街は電気が一つも灯らない。
暗い街並み。
イタチがどんな思いで犯行に及んだのか
わからない。
ただ……
見つめられた瞳は
痛々しく充血していた。
「花奏、行くよ」
「…うん。」
扉をゆっくりとしめた。