第16章 小さな手
「イタチ」
花奏を抱いて散歩していれば、前方で嬉声を上げるシスイが、大きく手を振った。
「ああ、シスイ……久しぶ……」と途中まで喋り、そのまま閉口してしまった。途端に暗たんな気分に陥る。
またか……。
深い溜息を吐き、イタチは肩を落とした。
「うちはの街」を歩く背後から、わざと分かるように追跡する2人
……いや3人がいる。
ミコトやフガクは、なにも知らない。イタチがいっさい口外しないからだ。
暗部入隊が決まった頃から、意味のない監視が始まった。四六時中ではない。自らが暇なときのみ。自己中心的で言わば、イタチへの嫌がらせであった。
うちは一族の一部の人は、常日頃から将来有望なイタチを妬む。
近い将来、「うちは」をまとめる役職に就くのが目に見える。ましてやフガクの息子。ほぼ確実だと、しばし囁かれていた。
面白くない。
嫉妬に駆られた一部の人間から見れば、イタチの存在は疎ましい。足を引っ張るネタを探すためだけに、追跡や邪魔を続けていた。
「よう、イタチ、……ああ、またか? お前も大変だな」
イタチの後方数十メートル先に、複数人の気配がある。シスイは気づき顔をしかめた。
「……もう慣れたがな」
暗い声で花奏に目をやった。はむはむ。まだ網のボールで遊ぶ。
飽きないのだろうか……?いっそのこと一度取り上げてみようか。それはあまりに意地悪か……。イタチは目尻を下げて顔を傾けた。
「? イタチ、妹ができたのか?」
3人目か?と、シスイが花奏をチラ見した。イタチは肩を震わせて吹き出しそうになった。あり得ないだろ、妹だなんて。
「違うよ。 ただ預かっているだけだ。ほんのすこしの間だけどな」
「そうか……イタチ、またな」
肩をポンと叩いて、シスイは通り過ぎた。長話はしない。リスクが伴うからだ。
ーーというより。
お互い、嫌味や妬みの被害に遭っていた。
シスイも例外ではない。暗部に入らずとも数多くの功績を残してきたシスイ。
難癖をつけることに、
躍起になる人間がいる。
うちは一族。誇り高き一族のはずだ。蓋を開ければ、妬みや嫌味が溢れていた。