第4章 一寸混ざった、世界のお話
とある大きな河の下流域ーーー
大きな河だけあって河川敷も広い。その場所に車を止めて、中也と狐は川縁に近付いた。
「俺の勘だとこの辺りに居ると思ったんだがなァ」
相違ってキョロキョロする中也を後ろで見てた狐は、突然耳をピコピコ、尻尾をユラユラとさせて口を開いた。
「…!ちゅーや!」
「あ?何だよ」
「…近づいてくる!」
「!」
その言葉を聞いた中也は川の流れに注目した。
そして、
見覚えのある足が二本、河から生え、目の前を流れていく。
「中って欲しくは無かったが中りかよっ!」
その光景に激しく舌打ちしながら河の上を走り出した。
「おや、水上を歩くことができるとは…」
その光景に狐は少し驚く。
そして、生えていた足のズボン裾を摘まむと一気に引き上げ、川縁に投げつけた。
「……ぐえっ!」
べしゃり、と云う音とともに叩きつけられた衝撃で水をはく男こそーーー
「…………あー最悪。せっかく今日こそ死ねると思ったのに」
のそりと起き上がったのは間違いなく探していた人物である太宰治だった。
「なぁーにが『死ねる』だ、放浪者。手前の生命力はゴキブリ以上だろーが。どうせくたばり損ねるだけだ」
「はぁ!?て云うか何で中也が助けるわけ?そんなに私に未練でもあるの?」
「ンな訳あるか!俺だって取り憑かれてなきゃ手前になんてこれっぽっちも用は無ェんだよ!」
「取り憑かれた、ってまた何か変な異能でも喰らったわけ??あーやだやだこれだから単細胞は」
「ちげーっつーの!」
ビシィッ!と太宰の後方を指差す中也。
釣られて、太宰も其方を見た。
「…………は?」
あ、しまった。俺以外には見えてねーんだった。
と思ったが、太宰は其方を見て、固まったまま動かない。
「!」
数秒そうした後、突然太宰はゆらりと立ち上がり、迷うことなく狐の前に歩きだした。
見えてる、のか。それとも故意に姿を見せているのか。
中也は辺りを見渡す。
大きな河川敷で昼間だ。車や人の往来はある。
しかし、こちらに注目する人間は誰一人として居なかった。
だとすれば、太宰だけが自分と同じように視えているのだろう、と中也は確信する。
「……君は……。」
「久し振りだね」
嬉しそうに云う狐。
矢張り、太宰が昔、話していた九尾の狐で間違いないのだろう。