第16章 報告(後編) (☆)
山姥切くんはその言葉に驚いて、踏み込みの体制を崩す。
まぁ、驚いたのは、僕も同じなのだけれど。
「…どうして、そう思うの?」
そう尋ねると、彼女は呼吸を落ち着かせながら、こちらを向き微笑んだ。
「事情があるから、躊躇ったのだろう? 最初、媚薬を仕込むところから」
「…っ!? 気付いて…!?」
驚いた。だって、気付いていたというのなら…
「ちょっと待て。気付いていたのに飲んだのか?」
「いっ、いだだだだだ…、や、やみゃんばぎりく…いだい…」
山姥切くんは彼女の頬を摘まんでいる。
ギリギリ、と聞こえて来そうな程、容赦なく。
「だ…だって何か、事情があるんだろうなってすぐに分かったし…」
「事情があるからって許される事じゃないだろう馬鹿かアンタは!! さっき無茶をするなとあれほど言っただろう…!?」
「いだだだ…、ご…ごめんなひゃい…」
ぎゅうぅぅぅっと限界まで彼女の頬を摘まんで、離す。
真っ赤になった頬を摩りながら、彼女は言葉を続ける。
「山姥切くん、そして水心子くん…。彼の事はあまり責めないであげてくれ」
「えっ…」
「アンタ、何を…」
「これは、彼の意志ではなく、何か事情があっての事だろう。手早く、手酷くすることも出来ただろうに、彼はちゃんと私の事を気遣ってくれた」
そう言って、水心子の方を見た彼女は
「貴方の親友は、優しい方だな」
なんて言って。笑う。
「ふ、あはは……」
「き、清磨…?」
「あぁ、ごめん。どうやら、僕の完敗みたいだね…」
「いや、君の勝ちではないか? 本当は、誰かに止めて欲しかったのだろう?」
巫女は、心も読めるのだろうか。
彼女の言葉にドキッとした。
「…もういい。帰るぞ。…文句は無いな」
「あ…えっと……」
「うん。今日は、ごめんね」
「ごめんで済むとでも…」
「いいんだ、山姥切くん。次は、事情を聞かせて貰える事を願っている。私に協力出来る事なら、惜しむ気はないぞ」
「アンタはまたそうやって…」
はぁ。と溜息を付いた彼は、彼女を抱き抱える。
恥ずかしいから下ろせ、という彼女の言葉を無視して、そのまま部屋を出ようと歩いた。