第5章 青色ドロップ
メニューを聞き終え、女性店員はメニューとベルを下げ一礼してから去っていった。
そんな彼女の後ろ姿をじっと見ていた名前に、どうしたんだい?と幸村は不思議そうな表情を零し首を傾げて見せた。
「いや…凄い綺麗な人だなぁって思って」
「あぁ、あの店員さんがかい?」
「うん。幸村くんもそう思ったでしょ?綺麗だなーって思わず見とれちゃったもん」
少しだけ興奮したように言えば、幸村は苦笑を漏らした。そう言えば、彼はあんなに綺麗な店員の前だと言うのに至って普通にメニューを注文していた気がする。
朋子が幼馴染だから、美的感覚が高いのだろうか?いや、それなら自分に好きなどと言うわけがない。
名前は眉を寄せぐるぐると考えていると、不意に幸村が口を開いた。
「名前は、綺麗な人が好きなのかい?」
「えっ?好きっていうか…憧れ?ていうのかな。私には無いものだから、思わず羨ましくて見ちゃうのかな」
「名前は可愛いからね。綺麗とは少し違うね」
さらりと言われた不意打ちの言葉に、名前は目を丸くさせみるみると頬を上気させた。
ーー可愛い、ってまた言ってくれた…。
朝と、先程と、今。
幸村から言われた"可愛い"という言葉を頭の中で数え、幸福感に浸りつつも緩く顔を左右に振った。
「可愛くないよ、私は。だから、幸村くんがそう言ってくれるのが不思議。私みたいな中の中…いや、中の下?かな」
「中の下って…名前、自分の事厳しく見すぎだよ」
「だって…。そ思っちゃうんだもん。…幸村くんは、私のこと可愛いとか…す、好き、とか言ってくれるけど…正直、なんで私なんだろう?って思う」
言いながら名前の言葉は少しずつ尻つぼみになっていき、最後は自分の言葉になんだか情けなくなってしまいそっとテーブルを見つめた。
こんな事を言っても困らせるだけだと言うのに、いったいなぜ自分はこんなにも可愛くない事を言ってしまうのだろうか?
名前は頭を抱えたくなる気持ちをぐっと堪え、ただ黙ってテーブルを見つめる。幸村の言葉が怖かった。どんな慰めの言葉を掛けるのだろうか?それとも呆れて帰ってしまうだろうか?