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【R18】ドロップス【幸村精市】

第5章 青色ドロップ



 彼女が幸村の悪口を言って、名前が憤怒したあの日からまだそんなに日は経っていないと言うのに。
 何故?いつそこまで親しくなったの?そんな言葉が頭の中でぐるぐると周り、気持ち悪くなりそうだったが、それでも名前は笑みを作ったまま彼女へと言葉を投げた。

「宮野さん…ごめんね、クラスメイトの名前まだ覚えきれてなくて」
「ううん、大丈夫だよっ。立海はクラスメイトの人数多いからね!えっと…名前ちゃんて呼んでも良いかな?」
「……うん!全然いいよっ!」
「良かった、ありがとう!」

 そう言って満面の笑みを浮かべる宮野に、名前は同じように笑みを浮かべた。しかし、名前の笑みは傍から見たら少し複雑なものに見えるかもしれない。

 ーー私も、名前で呼んでいい?って…言わなきゃ、いけないのに。

 ーー言いたく、ない。

 口元に笑みを携えながら、名前は自身の心の汚さに愕然とした。
 向こうは友好的に接し歩み寄ろうとしてくれていると言うのに、名前自身は線を引きそこから先へ歩み寄ろうとしない。幸村のことを悪く言っていた宮野をーー幸村のことが好きであろう宮野を、名前はどうしても友人と同じように接する事は出来なかった。
 器が小さい。性格が悪い。嫌な奴。
 自分でも分かっているからこそ、二人に悟られぬよう精一杯笑みを浮かべた。


 滑稽とも捉えられる笑みを。


 * * *
 
 あれから、三人で少しだけ話をしてから宮野と別れた。
 一緒に行動したいと零していた宮野だったが、それを幸村はやんわりと断っていた。それを、彼の横で顔を伏せ名前はひっそりと安堵していた。
 
 ーー本当に、性格悪いな。

 名前は内なる自身を目の当たりにして、気分が沈んでしまい頭の片隅でずっと彼女の笑みがチラついていた。
 もしかしたら彼女は純粋に三人で楽しみたかったのではないか?そう思えば思うほど自己嫌悪に陥ってしまう。まるで底なし沼に足を取られ、足元から引きずりこまれているようだった。
 美術館につき入場料を払う幸村の横顔をちらりと見た。いつもと変わらぬ表情。名前はそっと視線を外した。

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