第1章 サプライズを考えていた時を想像すると萌えませんか?
「わぁ、綺麗」
見え始めた桜に、石段の途中で早くも歓声をあげた私を見て、高杉君は唇の端を持ち上げる。
「気の早い奴だな。まだ少ししか見えてねーじゃねぇか。上行くともっと咲いてるぜ」
「うん」
私は頷いて足を進める。
私達は高校卒業後も付き合いを続けていて、今年の夏で丸4年。
今は私は実家、高杉君は電車で20分くらいの所に住んでいて、週末は私がそこに通うようになっている。
今日は珍しく高杉君がこっちに帰り、あの夏、初デートで花火を見た神社に夜桜を見に来たのだ。
風に乗って、薄紅の花びらが舞う。
「着いたぜ」
高杉君に言われて、顔を上げた私は小さく息を呑んだ。
花火を見た場所からもう少し石段を上がった先は、四方を桜に囲まれていた。
月明かりに照らされた満開の桜は、怖いくらいに綺麗。
「すごい…お花見っていつも公園行ってたじゃん。もったいなかったよ」
そうつぶやくと、高杉君は
「これから毎年来りゃ良いだろ」
と言って、タバコに火を点けた。
紫煙が、舞い散る花びらに絡み付く。
私達は、しばらく黙って桜を見ていた。
「、ちょっとあそこ座ろうぜ」
高杉君が石段の下、ちょうど花火を見たベンチを指した。
花びらは石段にも白く積もり、絨毯みたいだ。
「すべるから気を付けろよ」
そう言って差し出される手を、いつものように掴むと、ちょっと強く握り返された。
ベンチにもクッションの様に積もった花びらを、高杉君が払ってくれた所に座る。
高杉君は何故か隣に座ろうとはせず、私の正面に立った。
「どうしたの?」
「渡してぇモンがある」
ジャケットのポケットから取り出された箱は、私の両手に乗るくらいの大きさだ。
「開けろよ」
「うん」
膝の上に箱を乗せ、赤いリボンを取り、蓋を取る。中には薔薇のブリザーブドフラワーが敷き詰められ、金色の小さく細長いケース…。これって…。ケースを開く。
目に入ったのは、ケースの内側に刻印された「will you marry me?」の文字と、中央にダイヤモンドが付いた、ローズクォーツの印鑑。彫られている名前は…高杉。