第36章 束の間の日常
「あっ、ラウラさんっ!!」
兵長に続いて部屋に入って行くと、私の姿を見つけたエレンが、まるでボールが弾むようにして駆け寄ってきた。その顔には笑顔が浮かんでいて、とても嬉しそうだ。頭には三角巾が巻かれホウキを握っているので、掃除をしていたのだと分かる。
「エレン!」
私も嬉しくなって、つい声が大きくなってしまった。三角巾の巻かれた彼の頭を、まるで大型犬にやるようにしてわしゃわしゃと撫で回していると、室内だというのに斧を担いだミカサがやって来た。何でそんなものを持っているのかは分からない…。
「エレンはラウラさんにばっかり頭を触らせる。私にも触らせてほしい」
ミカサはちょっと拗ねたような表情を浮かべて、じとりとエレンをにらむ。物々しい出で立ちに反して、その内面は驚くほど女の子らしい。ミカサは、男性兵士顔負けの腕っぷしを持っているが、間違いなく乙女なのだ。
「嫌だよ。なんでお前に撫でられなきゃいけねーんだよ!」
視線だけをミカサに向けながらエレンが言う。撫でられているのが心地よい様子で、その場を動こうとはしない。私にだったらいいのか、と思ってなんだかちょっと嬉しくなった。本当にエレンは弟に似ていて、いつまででもこうしていたいと思う。