第34章 おかえり
身体を硬直させたまま、頭だけをグルグルと回転させている内に、私はとんでもないことを思い出した。
「あ!」
それは兵長とキスをしたこと。
私は大混乱状態に陥った。
破裂しそうな頭を必死に押さえて、起こった出来事を考えた。あれは昨夜の事!?いつの事?今は朝なの?私の夢?妄想?
でも、妄想だとしたら今目の前で兵長が私の手にキスをしているのは何故?
「…大丈夫か?」
明らかに挙動不審な私を心配してくださったのか、兵長が顔を覗き込んできた。その瞬間、ブワッと記憶がよみがえった。そう!まさにこんな感じで兵長の顔が近づいてきて…。
チュッと音を立てて、兵長の唇が私の唇に重なった。
「え、お」
仰天しすぎて、私の動きは止まった。そんな私を兵長の切れ長の瞳がじっと見つめている。
「とりあえず落ち着け、ラウラ」
「むむむむ無理です!というか兵長、今何を…」
「…嫌だったか?」
シュンと僅かに下げられた眉に、私は別の意味でも飛び上がりそうになった。兵長に悲しそうな顔をさせてしまった。
「そんな訳ありませんっ!」
「なら、良かった」
また普段の表情に戻られた兵長に私はホッとしたが、いやいや待て待て、そうじゃないだろうと思い直した。
「へ、兵長?その…あの…」
話し始めると、兵長とのキスの記憶が濁流のように頭の中に流れ込んできて、恥ずかしさのあまり私は言葉を失ってしまった。
その隙を突いてと言うか、とにかく私が黙り込んだところに兵長はとんでもない言葉を投下した。
「お前のことが好きだ」
まっすぐに見据えられて言われた言葉に、今度こそ唖然として私は言葉を失った。
ぐいと手を引かれて、兵長の腕の中に倒れ込む。
「おかえり、ラウラ。よく帰ってきてくれたな」
見上げると、兵長のキツく閉じられた目元には僅かに涙が光っていたのだった。