第32章 裏切り者達
「何で…そう思うんだよ…アルミン」
私同様に、状況を飲み込めていないらしいエレンが、やっとという感じで言葉を絞り出した。
確かに私もそう思う。なぜなら、今話したことは全て推測に過ぎず、根拠と言えるほど確実な情報ではなかったからだ。マルコという兵士の立体機動装置を持っていたような気がする…とか、エレンのあだ名である「死に急ぎ野郎」に反応したとか…。
どれも興味深い情報には変わりなかったが、決定打と言うにはいささか弱いように感じた。
そんな私達の気持ちを代弁するかのように、
「他に根拠は無いのか?」
と兵長が言った。
「はい…」
やや間があってから小さな声で答えたアルミンの声を聞きながら、私は女型巨人の姿を思い出していた。
一時的ではあったにせよ拘束することのできた女型は、今までに見たどんな巨人とも明らかに違っていた。
巨人達はほぼ例外なく男性的な体つきをしているというのに、女型はその名前の通り、まるで女性のような体つきをしていた。
それだけではなく、長時間の走行ができる持久力や、知性のある戦いぶりなども、他の巨人たちとは性質が全く異なる。
そもそも巨人は「戦う」のではなく「暴れている」だけである。だから、意思を持って「戦って」いる時点で、それは他の巨人とは別物と言えた。
だが、何よりも私が気になったのは、その表情や目つきだった。
巨人達は一人として同じ顔をした者はいないが、皆一様に虚ろな目をしている。怒ったような顔をしている奴もいるし、泣いているような顔をした奴もいる。気味の悪いうすら笑いを浮かべている奴もいる。でも総じて皆、目に力が無いのだ。
一方で視力は確かに存在するようで、現に人間たちを目で追って襲ってくる。でもその瞳はいつも、どこか焦点が合っていないように見えるのだ。
それが、女型巨人の瞳には迫力を感じた。あれは目的をはっきりと持っている者の目だった。
あの目からは強い意思が感じられ、それゆえに女型巨人の顔は…何というか、人間の顔のように見えた。