第32章 裏切り者達
「それは良かったです。ところで、先ほど本部から連絡があり、本日の昼頃にエルヴィン団長がこちらにいらっしゃるそうです」
私たちは今、旧調査兵団本部の古城に戻ってきている。エレンには一般の兵士からの隔離が命じられているので、カラネス区の兵団施設にはいられないからだ。
私と兵長はエレンの監視及び護衛のためにここにいる。だから今、この古城には私達三人しかいない。
「…そうか」
兵長はそれだけ言って、後はじっと私の手元を見下ろしていた。その顔は少しぼんやりして、どこか遠くを見ているような目だった。ペトラ達を失ってから、兵長は時々こういう顔をされるようになった。
だが、すぐに普段の兵長の顔に戻る。
「エルヴィンが来る前に、掃除を済ませちまうぞ」
「はい。でも、あまり無理はなさらないでくださいね。お怪我にさわります」
「バカ言え。掃除くらいなんでもねぇだろう」
兵長が少し眉を寄せる。確かに、先日ペトラ達の家族に報告に行った時には、もう足は引きずっていなかった。やはり人類最強の肉体は回復力も高いのだろうか。
私は包帯を巻き終えて立ち上がった。
「ではまず朝食を。もうご用意してあります」
「あぁ」
兵長は頷いて、椅子から腰を上げた。先にドアに向かった私に、後ろから「お前がいてくれて、助かる」とかけてくれた言葉に、思わず笑みが浮かんだのだった。